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論文紹介LUCUBRATIONS

地域小規模病院における慢性閉塞性肺疾患患者に対する包括的呼吸リハビリテーションの試み

「高齢・重症の慢性閉塞性肺疾患患者の日常生活及び保健指導のあり方に関する研究」報告書・公害健康被害補償予防協会委託業務報告書、pp.40-68, 1995.
大樹町立国民健康保険病院内科1)、同看護科2)、同リハビリテ−ション科3)
大樹町保健指導係4)、東京都老人医療センタ−呼吸器科5)
満岡孝雄1) 佐藤千代子2) 中川まゆみ2) 大内晴美2) 藤沢千代子2) 渡部珠枝2) 鈴木美恵子2) 宮永喜美子2) 由利真3) 瀬尾さとみ4) 明日見由香4) 木田厚瑞5)

【要旨】欧米では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対して、患者評価、患者・家族教育、禁煙指導、薬物療法、酸素療法、栄養指導、呼吸理学療法、心理社会的支援、継続的ケアなどを含む、“より包括的な”呼吸リハビリテ-ション(包括呼吸リハ)が実施され、症状改善やQOLの向上に役立つとして評価されている。当院のような呼吸器専門医のいない地域小規模病院において、この包括呼吸リハがどのような形で実施可能か、大病院の呼吸器専門スタッフの協力を得て試みた。COPD 患者46名に対して包括呼吸リハの受講希望をとった。受講希望者は24名で、このうち実際に受講した者は16名であった。クラス方式で6回にわたり講習をおこなった。受講者の平均年齢は74歳であった。高齢にかかわらず講習内容の理解は悪くなく、病気を自ら管理しようとする自覚がもたらされた。地域小規模病院でも包括呼吸リハの実施は十分に可能であると考えられた。

Key words
包括的呼吸リハビリテ-ション、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、QOL、地域小規模病院、患者教育

はじめに

われわれは1995年「合併症をもつ慢性閉塞性肺疾患患者の日常生活における保健指導方法に関する研究」を実施し報告した1)

その中で、①禁煙、服薬、呼吸法、去痰法などの指導の徹底、②患者自身が自分の病気に関心をもち、自分の病状を理解し、病状増悪時に適切に対処できるように自己管理のノウハウを教育する保健指導、などが慢性閉塞性肺疾患(以下 COPD と略す)患者に対して必要であることを明らかにした。

COPD患者に対する呼吸リハビリテ-ションは、従来より呼吸筋のトレ-ニングに重点をおいてなされてきた。最近欧米において、患者評価、患者・家族教育、禁煙指導、薬物療法、酸素療法、栄養指導、呼吸理学療法(呼吸訓練、排痰法、運動療法)、心理社会的支援、継続的ケアなどを含む、“より包括的な”医療プログラムを患者に提供する包括的呼吸リハビリテ-ション(以下包括呼吸リハと略す)が行われ、患者の症状改善や生活の質(QOL)の向上に役立つとして評価されている2)3)

このような包括呼吸リハは、前述したCOPD患者のかかえる問題の解決方法として大いに期待される。しかし、本邦においては包括呼吸リハはほとんど実施されていない。そこでわれわれのような呼吸器専門医のいない地域小規模病院においてこの包括呼吸リハがどのような形で実施可能か、東京都老人医療センタ-呼吸器科のスタッフの協力を得て試みた。

包括呼吸リハ実施へのプロセス

表1に示す日程で包括呼吸リハの導入をはかった。

表1.包括的呼吸リハビリテ-ション実施へのプロセス
(1995.10.1) 包括的呼吸リハビリテ-ション・チ-ム発足
病院9名(医師1名、看護婦6名、保健婦1名、理学療法士1名)
役場2名(保健婦2名)
(1995.10.9〜10) 包括的呼吸リハビリテ-ションの事前研修
東京都老人医療センタ-呼吸器科スタッフ7名(医師3名、看護婦3名、事務局1名)によるチ-ム・メンバ-の教育
(1995.10〜1996.1)3か月間の自己学習
(1996.1.19)第1回実施準備会
(時期、会場、講習内容、方法、役割分担などについて検討)
(1996.1.26) 「呼吸リハビリ教室の御案内」の往復はがき送付、受講希望者を把握
(1996.2.19)第2回実施準備会
(患者選択法、受講者の講習前評価法などについての検討)
(1996.2.25)町広報誌の「病院だより」の欄に「呼吸リハビリ教室への招待」を掲載
(1996.3.4)第3回実施準備会
(役割分担決定、講習前患者評価用紙作製、プログラム決定、受講希望者への連絡、講習テキスト作製)

1.包括呼吸リハ・チ-ムの発足

1995年10月1日、医師1名(院長)、看護婦6名(婦長を含む)、病院保健婦1名、役場保健婦2名、理学療法士1名の計11名からなる包括呼吸リハ・チ-ムを院内に発足した。チ-ム・メンバ-のいずれも今までに包括呼吸リハの指導経験はなかった。

2.東京都老人医療センタ-呼吸器科スタッフによる事前研修

1995年10月9日、東京都老人医療センタ-呼吸器科のスタッフ7名(医師3名、看護婦3名、事務局1名)が来院した。翌10日、当院にてチ-ム・メンバ-に対する包括呼吸リハの事前研修が同スタッフにより約6時間をかけて具体的に行われた。研修テキストには同スタッフによって試作された「包括的呼吸リハビリテ-ション・スタッフ・マニュアル」4)が使用された。

3.チ-ム・メンバ-による包括呼吸リハの自己学習

研修後約3か月間、チ-ム・メンバ-は研修に用いた「包括的呼吸リハビリテ-ション・スタッッフ・マニュアル」を読みなおし研修内容の理解を深めた。さらにメンバ-全員に「呼吸リハビリテ-ション・プログラムのガイドライン」5)と「自分でできる呼吸リハビリテ-ション」6)の2冊の本が参考書として配布され自己学習がはかられた。

4.包括呼吸リハの実施に向けての準備会

チ-ム・メンバ-による実施準備会が表1のような日程で計3回開かれた。その中で以下に述べるような包括呼吸リハの具体的な実施方法について検討を重ねた。

対象および方法

1.対象者抽出

1年以上当院に通院するCOPD患者46名に対して、資料1に示す「呼吸リハビリ教室の御案内」と題する往復はがきを送り、講習会参加の希望をとった。

資料1

資料1

一方で、町広報誌の「病院だより」の欄に資料2のような「呼吸リハビリ教室への招待」という文書を掲載し、包括呼吸リハについてのキャンペ-ンをおこなった。

資料2

資料2

受講を希望したものは24名であった。今回はこれらを包括呼吸リハ講習の対象者とした。対象者の年齢は58~86歳で、平均74.9歳であった。

2.講習方法

講習は受講者に一同に会してもらい全員を対象に指導するクラス方式を採用した。会場は高齢者が多いこともあり、たたみの部屋がある院外の老人福祉センタ-を選んだ。実施日は受講者が比較的集まりやすい曜日でチ-ム・メンバ-にも都合のよい土曜日の午前中とした。1回の時間は約2時間で、毎土曜日に連続して6回行うことにした。はじめの5回は講習で、最終の1回は受講者に講習会についての感想、意見を聞く評価会とした。講習時期は農家が農繁期にはいる前の3月から4月にかけて予定した。

3.講習日程、内容および担当

1996年3月11日、受講希望者に対して資料3に示す包括呼吸リハ講習会の日程、内容、担当を記した案内状を送付した。日程は3月23日から4月27日までの毎土曜日とした。講習内容は資料3に示すように、

資料3

  • 第1回:医師による呼吸のしくみ、 COPD の説明、薬物療法
  • 第2回:婦長による禁煙指導、役場保健婦による栄養指導
  • 第3回:看護婦による日常生活指導、排痰訓練
  • 第4回:理学療法士による呼吸訓練、運動療法
  • 第5回:病院保健婦によるピ-クフロ-メ-タ-の使い方、在宅酸素療法

であった。

講習は各担当者が東京都老人医療センタ-呼吸器科スタッフによって試作された「包括的呼吸リハビリテ-ション・スタッフ・マニュアル」を基本に他の本も参考にして資料をつくり、それに基づいて行われた。

4.受講者の講習前評価

第1回目の講習時に「呼吸リハビリテ-ション評価用紙」を用いて、受講者の症状、日常生活自立度、服薬状況、禁煙、家庭環境、居住環境、通院方法、呼吸法・去痰法の知識、心理状況、認知能力などについて講習前の評価を行った。

5.講習内容の理解度の評価

講習内容の理解度を「呼吸リハビリテ-ション質問用紙」で評価した。質問用紙の一部を資料4に示した。質問は全問57問で、60点満点に設定した。各回の講習を始める前に、その日の講習内容に関する質問に答えてもらった。5回の講習が終わって翌週の評価会で同じ57問を再度答えてもらい理解度を評価した。

資料4

結果

1.受講率

受講希望者24例中、実際受講したものは15例(62.5%)であった。このうち講習全5回にすべて出席したものが6名、4回出席者が4名、3回出席者が2名、2回が2名、1回が1名であった。

2.受講者の感想・意見

5回の講習会が終わった翌週に評価会を開いた。7名が出席した。以下に受講者の主な感想・意見を示す。

  • 「病気は医師が治してくれるものと思っていたが、自分でも勉強しなくてはいけない」
  • 「今まで、自分の病気に無関心すぎた。もっと自分の病気に関心をもち医師まかせにしてはいけないと思った」
  • 「自分の病気は自分で管理しなければならない」
  • 「同じ病気の人に講習会の資料をみせて勉強しようと考えている」
  • 「呼吸法が一番勉強になった。経験することで理解できるし、実行して効果があったと感じている」
  • 「食事のとり方について無関心であった。肺の病気で栄養管理が大切であるとはじめて知った」
  • 「家族が同席してくれたら自分の病気のことを理解してくれただろう」

おおむね、受講者は講習会を高く評価していると感じられた。また、病識をもつ上で役立っていると思われた。

3.理解度の評価

講習内容の理解度を資料4の「呼吸リハビリテ-ション質問用紙」を用いて評価した。表2に結果を示した。全5回講習に出席した6名では講習前の平均点数は60点満点の38.7点(正解率64.3%)であったが、講習後は48.3点(正解率80.6%)へと改善した。

表2.講習内容理解度の評価
症例 年齢 FEV1% 講習前正解率 講習後正解率
TH65F
60%
50(83%)58(97%)
TM76M
55.9%
39(65%)48(80%)
GY78M
68.4%
47(78%)47(78%)
MK82M
54%
30(50%)47(78%)
MM83M
63.3%
37(62%)50(83%)
KI74M
64.4%
29(48%)40(67%)
平均76.3  61.02%38.7(64.3%)48.3(80.6%)

4.チ-ム・メンバ-の包括呼吸リハ試行に関する評価

4回目の講習が終了した4月16日と評価会も含めて全日程が終了した5月10日の2回にわたりチ-ム・メンバ-による講習会の評価を行った。以下のような問題が指摘された。
「今回は栄養指導を役場保健婦が担当したが、栄養士が担当した方がよい」
「包括呼吸リハの指導方法についてスタッフ自身がまだ勉強不足」
「クラス方式よる指導のために個別性にかける。理解力の個人差が大きいためにクラス方式で説明するのはむずかしい」

考察

今回の包括呼吸リハの試行は、受講者におおむね高く評価されるとともに、対象が高齢者であったためにその理解力に不安もあったが、講習内容の理解はおおむね良好と考えられた。

以下、今回の包括呼吸リハ試行において感じた問題点について考察を加える。

1.対象者の選定

欧米では包括呼吸リハの講習は個別あるいは小グル-プ方式を基本として行われている。われわれもそのような方式を考慮したが、

  1. 個別方式では時間がかかりすぎる、
  2. 小グル-プでするにも対象者をどのような基準で選別するのかむずかしい、
  3. はじめはクラス方式で包括呼吸リハに関する概略をつかんでもらい、その後個別ないし小グル-プ方式を導入した方がむだがない、
などの理由で、受講希望者をすべて対象とした。

47名中24名(51%)が受講を希望した。約半数が受講希望を表明したことは、包括呼吸リハに対する期待があったためと思われる。

受講希望者24名中、講習に実際参加したものは15名(62.5%)であった。初回は3月23日であったが、前夜からの季節はずれの積雪量が 70cmにもおよぶ大雪で道路の除雪もおいつかず、このため市街地以外からの参加者が少なくなった可能性がある。5回の講習すべてに出席した者は6名であった。土曜日の午前中に連続5回出席することは相当の努力を要すると思われる。次回からは1回の時間を多少長くしても回数を減らして行う必要があると考えられた。

2.クラス方式の問題点

今回はクラス方式を採用したために、個人のレベルおよび問題にあわせた細かな個別指導は困難であった。しかし、総論的に包括呼吸リハがどういうものであるかを理解してもらう目的ではクラス方式は有用と思われた。今後は不足した点を個別指導で補うようにする必要があると考えられた。

3.受講者の理解度

受講者は1名を除きすべて65歳以上であり、4名は80歳以上であった。このような高齢者に講習内容がどの程度理解されるか心配であった。しかし、質問表による理解度の評価では、61%から81%と正解率が改善し理解度は良好と考えられた。

4.専門医のいない地域小規模病院での包括呼吸リハとりくみの問題

われわれの病院には呼吸器専門医はいない。今回は都老人医療センタ-呼吸器科のスタッフにより包括呼吸リハの実施方法を学んだ。その後チ-ム・メンバ-は各自学習し理解に努めたが、学習時間が足りず理解不十分なまま講習会にのぞんだことも一部のメンバ-から指摘された。しかし、十分でない点があったとしても、全体としては受講者には好評であり、講習内容もほぼ理解されたと考えられた。今後経験を重ねてゆけばよりよいものができるという期待がもたれる。はじめに呼吸器専門医による実施方法に関する伝授があれば、専門医のいない地域の小規模病院でも包括呼吸リハの指導は十分に可能と思われた。同時に、勤務時間外に学習をし講習を実施するなどチ-ム・メンバ-の積極的な姿勢と意欲が必要である。

5.今後の課題

受講者が包括呼吸リハを学んでも自ら実践しなければ意味がない。最終の評価会では呼吸法を実践し呼吸が楽になったという受講者の声もきかれた。包括呼吸リハが受講者の症状やQOLの改善にむすびつくかは今後の検討が必要である。

受講者の症状や日常生活活動度について講習前評価をおこなったが、数か月から半年後に再び同じ評価を行い、これらがどのように改善したか検討する予定である。また、病状や療養方法の改善が入院回数の減少、入院期間の短縮にむすびつくことも期待できるが、これについても今後長期にわたり検討していく必要がある。

本研究は、公害健康被害補償予防協会の平成7年度研究費助成を受けて行われたものである。

A trial of comprehensive pulmonary rehabilitation program in COPD patients in a small town hospital

Takao Mitsuoka1), Chiyoko Sato2), Mayumi Nakagawa2), Harumi Ouchi2), Chiyoko Fujisawa2), Tamae Watanabe2), Mieko Suzuki2), Kimiko Miyanaga2), Makoto Yuri3), Satomi Seo4), Yuka Asumi4), Kozui Kida5)

1)Department of Internal Medicine, 2)Nursing Department, 3)Department of Rehabilitation, Taiki Town Hospital
4)Department of Health and Sanitation, Taiki Town
5)Pulmonary Division, Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital

文献

  1. 中川まゆみ、佐藤千代子、満岡孝雄、他:合併症をもつ慢性閉塞性肺疾患患者の日常生活における保健指導方法に関する研究、1994年度公害健康被害補償予防協会委託業務報告書
  2. Radovich J., Hodgkin J.E., Burton, G.G., et al: Cost-effectiveness of pulmonary rehabilitation. In: Hodgkin J.E., Connors G.L., Bell W., eds. Pulmonary Rehabilitation: Guidelines to Success. 2nd ed. Philadelphia, PA: J.B. Lippincott; 1992.
  3. Hodgkin J.E., Benefits and the future of pulmonary rehabilitation. In: Hodgkin J.E., Connors G.L., Bell W., eds. Pulmonary Rehabilitation: Guidelines to Success. 2nd ed. Philadelphia, PA: J.B.Lippincott; 1992.
  4. 木田厚瑞監修、包括的呼吸リハビリテ-ション・研究プロジェクト編:包括的呼吸リハビリテ-ション・スタッフ・マニュアル、第1版、1995年
  5. Gerilynn Connors, Lana Hilling 編、日本呼吸器学会監訳:呼吸リハビリテ-ション・プログラムのガイドライン:ライフサイエンス出版株式会社、1995年
  6. クリス・ハラ、エドワ-ド・モ-ガン著:芳賀敏彦日本語版監修:自分でできる呼吸リハビリテ-ション-慢性呼吸障害のある人のいきいき生活マニュアル-:照林社/小学館、1994年