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論文紹介LUCUBRATIONS

今、栄養学は大変革期に!?〜糖質制限食の意味〜

Paradigm shift of nutrition!? -Meaning of low carbohydrate deiet-
Mitsuoka Clinic Medical Corporation for the Practice of Cardiac and Internal Diseases
Takao Mitsuoka, M.D., Ph.D.
3-14-3, Ozora-Cho, Obihiro, Hokkaido, 080-0838 (tel. 0155-48-9111)
更年期と加齢のヘルスケア15(2):407-415, 2016.

概要

糖質制限食は、糖質制限の程度によって、極度、高度、中程度の3つに分類すると分かりやすい。極度(極度糖質制限・ケトン体産生食)では、一日摂取総キロカロリー(以下総カロリーと略す)の10%以下、あるいは20〜50g/日に糖質を抑える。このレベルでは多くの人がケトーシス(血中ケトン体が0.5mM/L以上)となる。高度では、総カロリーの10〜25%、あるいは50〜130g/日に糖質を抑える。このレベルでは多くはケトーシスにはならない。中等度では、総カロリーの26〜45%、あるいは130〜225g/日に糖質を抑える。ケトーシスにはならない。

糖質を制限すると、総カロリーを保つために、タンパク質を増やすか、あるいは脂質を増やすか、ということになる。2013年に米国糖尿病学会(ADA)は糖質制限食を容認したが、1日130g以下の極度あるいは高度の糖質制限は推奨せず、との立場をとった。また、糖質・タンパク質・脂質の摂取比率についてはエビデンスがないとして、これを撤回した。糖尿病性腎症の患者に対してもエビデンスがないとして、タンパク質制限を撤回した。日本では、腎機能低下には、1日40g以下のタンパク質制限が推奨されている。脂質に関しては、食事中の飽和脂肪酸が多いことが、冠動脈疾患発症につながるという考え方があり、食事中の飽和脂肪酸量の制限が推奨されてきた。しかし、食事中の飽和脂肪酸と冠動脈疾患発症には関連性がないという疫学データが示され、ADAは脂質の摂取率も撤回してしまった。

メタボリック症候群の改善のためには、総カロリーの26〜45%(糖質130〜225g/日)の中等度糖質制限食を目安とするのが現実的かと考えられる。一方、10%以下の極度糖質制限・ケトン体産生食は、認知症、神経変性疾患、がんなどに有効との報告がなされており、今後の動向が注目される。(更年期と加齢のヘルスケア15:407-415, 2016)

キーワード
糖質制限食、ケトン食、メタボリック症候群、糖尿病、認知症

はじめに

炭水化物という呼称が長年使用されてきたが、実際は糖質と食物繊維をあわせたものである。生活習慣病の予防や腸内細菌叢を良い状態に保つための重要な栄養素であり、十分に摂取する必要がある。最近、炭水化物制限食が話題になっているが、制限したいのは糖質であり、食物繊維ではない。上記の理由で炭水化物制限食より糖質制限食がより適切な用語と考えられ、このため本稿では、糖質あるいは糖質制限食という言葉を採用した。

糖質制限食が宅配される時代に

2016年7月のH新聞に、「低糖質メニュー新登場」という広告が掲載された。低糖質食を宅配する、という内容である。写真に出ていた弁当は、総カロリーは210キロカロリー(以下kcalと略す)、糖質は6g。糖質をカロリーにすると24kcalで、総カロリーの約10%となる。ここまで糖質を制限すると、これは今話題のケトン食そのものである。

糖質制限食については、この10年ほどその可否について医療者間でホットな議論が繰り広げられているが、現実には宅配されるまでになってきた。このような状況をふまえ、糖質制限食を正しく理解しておく必要性を感じたので、今回とりあげることにした。

日本医師会が糖質制限食について初めてコメント

2016年4月5日、日本医師会は患者向けのニュースレターで、初めて糖質制限食を取り上げた1)。「炭水化物制限食〜適切に活用を〜」とのタイトルで、執筆者は東大分子糖尿病科学の植木浩二郎特任教授である。彼はまた日本糖尿病学会の常任理事でもある。このような立場の人が、今まで公に糖質制限食についてコメントしたことはなかった。

日本糖尿病学会は、今まで糖質制限食は良くないという立場であったが、一歩進んで容認することに植木氏は踏み込んだ。以下、本文を抜粋する。

「現在、わが国の食事摂取基準では、(中略)エネルギー摂取比率として、炭水化物から60%弱、脂質から約25%、たんぱく質から約15%が推奨されています。炭水化物制限食では、この60%の炭水化物摂取を5%前後にする極端な制限から、40%程度の比較的緩やかな制限まで、いくつかの方法があります。(中略)糖質を(中略)制限すると、血糖値が下がりインスリン分泌が低下して、(中略)脂肪の分解や、肝臓での脂肪の燃焼が増えて、体脂肪が減少し体重が減ったり、脂肪肝が改善するなどの効果があります。(中略)一方、多めにたんぱく質を摂取した場合、(中略)腎機能を悪くしたり、(中略)血糖値を下げる薬を飲んでる人は、(中略)薬の量を調整する必要もあり、(中略)医療機関で専門家の管理指導の下に取り組みましょう。(中略)低炭水化物食も、(中略)長続きするようであれば、(中略)適切に活用できればよいのではないでしょうか。」

要約すると、糖質制限食は、体重や内臓脂肪の減少効果があり、糖尿病も改善、人によっては薬の減量も可能、と認めた上で、たんぱく質のとり過ぎは腎機能低下にも結びつくこともあるので、専門家の指導のもとに行うべき、としたのである。

糖質制限食の定義について

糖質制限食の議論が複雑になっている一因に、その定義の曖昧さが関係していると思われるので、ここでまず定義を明確にしておきたい。

表1は、2015年に雑誌「Nutrition」に掲載された糖質制限食の総説論文から引用したもので、和訳し、一部改変したものである2)

糖質制限食といっても、糖質制限の程度と、その結果ケトン体が産生されるかによって、大きく4つに分類される。

制限が強い順にあげると、表1の上から

  1. 極度糖質制限・ケトン体産生食(very low-carbohydrate ketogenic diet=VLCKD)、
  2. 高度糖質制限食(low-carbohydrate diet=LCD)、
  3. 中等度糖質制限食(moderate-carbohydrate diet=MCD)、
  4. 軽度糖質制限食(high-carbohydrate diet=HCD)
に分類される。

表1.糖質制限食の定義(文献2から引用、和訳し一部改変)
  糖質 ケトン体 備考
極度糖質制限・ケトン体産生食
very low-carbohydrate ketogenic diet
(VLCKD)
20〜50g/日
or
2000kcal/日の10%以下
多くの人でケトーシスが生じるレベルケトーシス:ケトン体が0.5mM/L以上 アトキンズ食の導入時に用いられる
高度糖質制限食
low-carbohydrate diet
(LCD)
50〜130g/日
or
総カロリーの10%〜25%
でない 米国糖尿病協会(ADA)は130g/日以下の糖質制限は推奨しない
中等度糖質制限食
moderate-carbohydrate diet
(MCD)
総カロリーの26〜45% でない 肥満にならないための上限は43%
軽度糖質制限食
high-carbohydrate diet
(HCD)
総カロリーの46〜60% でない ADAは45%を目標値に2010年の米国食事ガイドラインでは45-65%を推奨平均的米国人は49%以下と推定

軽度糖質制限食では、総カロリーの46〜60%が糖質となる。米国人の平均糖質摂取量は49%以下と推定されているので、軽度糖質制限食は、治療食としてあまり意味はないと思われる。一方、日本人は平均60%の糖質を摂っているので、これを45%に下げれば糖質制限になる。しかし、治療食として考えた場合、極度、高度、中等度までの糖質制限食が実際的と思われる。

①の極度糖質制限・ケトン体産生食(以下極糖限ケトン食と略す)は、1日の糖質摂取量が20〜50g。総カロリーが2000kcalの場合は、糖質は10%以下となる。このレベルの制限では多くの人がケトーシスとなる。ケトーシスとは血中ケトン体が0.5mM/L以上をさす。この極糖限ケトン食は、薬剤抵抗性てんかんの治療食として長年用いられてきた。

②の高度糖質制限食(以下高糖限食と略す)は、1日の糖質摂取量が50〜130gで、総カロリーの10〜25%が糖質となる。このレベルでは多くはケトーシスにはならない。米国糖尿病学会(以下ADAと略す)は1日130g以下の糖質制限は推奨していない。すなわち①の極糖限ケトン食と②の高糖限食をADAは推奨していないことになる。

③の中等度糖質制限食(以下中糖限食と略す)は、総カロリーの26〜45%が糖質となる。肥満にならない上限は43%とADAはしている。この中糖限食をADAは容認している。

④軽度糖質制限食は、総カロリーの46〜60%が糖質となる。平均的米国人の糖質摂取量は49%以下と推定されているので、このレベルの糖質制限は、治療食としてあまり意味はないと思われる。一方、日本人は平均60%の糖質を摂っているので、60%を45%に下げれば、これは糖質制限になると考えられる。しかし、治療食としての糖質制限食を考える場合、上述の①②③とするのが妥当であろう。

糖質制限食を円グラフで示す

総カロリー中の糖質を、10%まで、25%まで、45%まで、とすると分かりやすい。

図1左は、今の日本における総カロリー中の三大栄養素の平均比率を示している。糖質が60%、脂質が20〜30%、タンパク質が10〜20%である。

これが、極糖限ケトン食になると、図1左から2番目のように、糖質は60%から10%に減少し、20〜50g/日となる。タンパク質過剰は腎機能低下につながる可能性があるので、なかなか増やせない。したがって、タンパク質は10〜20%のままで、結局、糖質を減らした分、脂質で補うことになり、脂質が70〜80%になる。

高糖限食は、図1左から3番目のように、糖質は10〜25%となり、50〜130g/日である。タンパク質は前述の理由で10〜20%のままで、糖質を制限した分、やはり脂質で補うことになり、脂質は55〜80%となる。

中糖限食は、図1右のように、糖質は25〜45%で、130〜225g/日となる。タンパク質はそのままの10〜20%とすると、脂質は35〜65%となる。

図1.3大栄養素の比率は糖質制限食ではどうなるの?

図13大栄養素の比率は糖質制限食ではどうなるの 総カロリー中の糖質を、10%まで、25%まで、45%までとすると分かりやすい。図左は、今の日本における総カロリー中の三大栄養素の平均比率を示している。糖質が60%、脂質が20〜30%、タンパク質が10〜20%である。極糖限ケトン食になると、図左から2番目のように、糖質は60%から10%に減少し、20〜50g/日となる。タンパク質過剰は腎機能低下につながる可能性があるので、なかなか増やせない。したがって、タンパク質は10〜20%のままで、結局、糖質を減らした分、脂質で補うことになり、脂質が70〜80%になる。高糖限食は、図左から3番目のように、糖質は10〜25%となり、50〜130g/日である。タンパク質は前述の理由で10〜20%のまま、脂質は55〜80%となる。中糖限食は、図右のように、糖質は26〜45%で、130〜225g/日となる。タンパク質はそのままの10〜20%とすると、脂質は35〜65%となる。

米国における糖尿病の増加

ADAは総カロリーに対する糖質の比率を、1950年に40%、71年に45%、86年には60%に、徐々に引き上げて推奨してきた。この背景には食事中の脂質、特に飽和脂肪酸やコレステロールが、心筋梗塞などの冠動脈疾患発症に関連していると、推測していたからだ。しかし、この推測は証明されないまま、糖質を増やしたことが新たな問題を起こした。

糖尿病食は、一般的にヘルシーな食事という認識があったので、米国民の平均糖質摂取率は1971年から99年にかけて、図2左に示すように、男性は総カロリーの42%から49%へ、女性は図2右のように、45%から52%へと増加した。脂肪摂取量は男性ではいくらか低下したものの、女性では微増している。これによって総カロリーも増加する結果となった3)

一方、図2右の枠内に示すように、1970年から93年にかけ、糖質摂取の増加と一致して、米国における糖尿病発症は約300万人から700万人を超えるまでに増加した4)

図2.米国の3大栄養素摂取量と2型糖尿病の推移

図2国の3大栄養素摂取量と2型糖尿病の推移

1971年から1999年にかけての総カロリーの増加は、糖質摂取の増加に起因している。脂肪摂取量は男性ではいくらか低下し、女性ではいくらか増加している3)。 右図枠内に糖尿病患者の推移を挿入しているが、1970年から1993年にかけての糖尿病の増加は、糖質摂取の増加と一致している4)

米国における糖質制限食の歴史

肥満治療に対する糖質制限の考え方は古くからあった。それが一般に知られるようになったのは、1863年に英国の棺製作者の W. Banting が出版した小冊子にはじまる5)。彼は自分の体験に基づいて、肥満の改善に低糖質-高タンパク食を説き、この本は当時のベストセラーとなった。

1921年、糖尿病に対する高脂肪食の効果を研究していたメイヨークリニックの医師 R.M. Wilder は、てんかんの治療法として極糖限ケトン食を初めて報告した6)

1940年代、デラウエア州にある米国の大手化学企業のデュポン社は、増える社員の肥満問題に直面していた。この解決のために医師の A.W.Pennington を招聘した。彼は社員の健康状態、食生活を研究し、低糖質で、カロリー制限をしない高脂肪・高タンパク食を試みて成果を上げた7)。これは今でいう極糖限ケトン食であった。彼の食事療法はデュポン・ダイエットとして一般に知られるようになり、1950年には小冊子が出版された。

1972年、医師 R. Atkins は Pennington の極糖限ケトン食の論文に触発され、アトキンス・ダイエットを考案し、「The New Diet Revolution」の初版本を出版した。しかし、時代の低脂肪・低コレステロール・カロリー制限食の流れに打ち消され、注目されることはなかった。しかし、1990年代になると、増え続ける肥満と糖尿病に悩む米国民の心を捉え、改訂版の出版もあいまって8)、アトキンス・ダイエットはブームとなった。これも極糖限ケトン食であった。これを契機に、糖質制限食と従来の食事療法とを比較する医学研究が促進されはじめる。

1997年、R.K.Burnstein が「Diabetes Solution」を出版した9)。以来この本は糖尿病患者のバイブルとなっていく。彼は12歳で1型糖尿病を発症し、20余年の治療にもかかわらず糖尿病は悪化の一途をたどった。35歳時、開発された自己血糖測定器の広告を見て、医師の妻に頼んで購入してもらい、1日に約5回自分の血糖を測定し、血糖が著しく上下していることを知った。極糖限ケトン食を自ら試みながら、自分流の血糖管理を行い、インスリン量を3分の1まで減らすことに成功した。また、長年患ってきた合併症も克服した。編み出した治療法は、他の糖尿病患者にも役立つと考え、医学界に提案したりしたが、彼が医療関係者でないという理由で注目を浴びることはなかった。45歳時、ビジネスマン・技術者として成功をおさめていた彼ではあったが、糖尿病治療法を本にして広め、ゆくゆくは糖尿病患者を治療したいと考え、医学校に入学した。49歳でニューヨークの近郊でクリニックを開業し、63歳で念願の「Diabetes Solution」を出版した。

以上のように糖質制限食、特に極糖限ケトン食は、最初は肥満や糖尿病に悩む一般の人々に受け入れられて広まっていった。

米国糖尿病学会の対応

増え続ける糖尿病患者を前に、ADAは食事療法のガイドラインを改定していった。

1994年には、総カロリー中の糖質と脂質の摂取規定を撤廃し、タンパク質のみ10-20%とした。

2004年には、「血糖を上昇させるのは唯一糖質だけであり、糖質は2時間以内に100%血糖にかわり、タンパク質、脂質は直接血糖には変わらない」とした。それまでは、タンパク質の50%が血糖に、脂質の約10%が血糖に変わるとしていたが、根拠がないとしてこれを撤回した。

2013年には、ついに糖質制限食を容認したのである。ただし、1日130g以下の極糖限ケトン食あるいは高糖限食は推奨せず、との立場をとった。また、総カロリー中の、糖質・タンパク質・脂質の理想的な比率に関するエビデンスはないとして摂取比率も撤回した。糖尿病腎症に対するタンパク質制限食についてもエビデンスがないとして、これを撤回。

こうして米国では、総カロリー中の3大栄養素の摂取比率の指標も消え、腎機能低下に対するタンパク質制限食も否定される結果となった。

2015年の糖質制限食に関する12のエビデンス

糖質制限食、特に極糖限ケトン食についてこの数十年、様々な議論が繰り広げられてきたが、2015年に、世界中の糖質制限食を支持する立場の研究者約30名が連名で、医学雑誌「Nutrition」に総説論文を書いた2)。この総説で糖質制限食に関する12のエビデンスを明らかにしている。箇条書きにして以下に紹介する。この総説で取り上げられた糖質制限食のデータの大部分は、極糖限ケトン食のものである。

  1. 糖尿病の最も重要な所見は高血糖である。糖質制限食は血糖を下げるのに 最も有効な手段である。
  2. 肥満と2型糖尿病の疫学研究では、摂取カロリーの増加はほとんど糖質摂取の増加に起因している。
  3. 糖質制限食の効果は体重減少とは関係がない。
  4. 体重減少は効果発現に必要ではないが、糖質制限食は減量のためのすぐれた食事でもある。
  5. 2型糖尿病患者は、糖質制限食を他の制限食と同じように実行できるし、しばしば他の制限食より好む。
  6. 糖質をタンパク質でおきかえても、だいたい同じ効果がある。
  7. 食事中の飽和脂肪酸量と心血管病は関連がない。
  8. 血中の中性脂肪中の飽和脂肪酸は、低脂肪食より糖質制限食によってもっと減少する。
  9. 2型糖尿病患者の合併症(細小血管症と大血管症)の最もよい指標はHbA1Cである。
  10. 糖質制限食は、中性脂肪を下げ、HDL-Cを上げる最も有効な方法である(断食を除いて)。
  11. 2型糖尿病患者で糖質制限食を行うと、薬剤数を減らし、しばしば薬剤を止められる。また、1型糖尿病患者でも、インシュリン量を減らすことができる。
  12. 糖質制限食は、薬物による強化治療と同等の効果があり、同時に副作用はない。しかし、糖尿病で薬剤治療中の人は、糖質制限食により低血糖発作を起こす可能性があるので、医師の指導のもとで行う必要がある。また、糖質制限食をはじめるに当たって、薬剤の減量を考慮する必要があるかもしれない。

糖質制限食の可否は、長期大規模無作為化試験(RCT)の結果を待つべき、との議論もあるが、長期大規模RCTの実施は、現実的には困難と思われる。

以上が、この総説の要約である。極糖限ケトン食あるいは高糖限食は推奨しないというADAの立場も考慮する必要がある。しかし、他に適切な治療法がなく、患者のインフォームド・コンセント(説明した上での同意)を得られれば、症例によっては極糖限ケトン食あるいは高糖限食を、医師の指導のもとに実施することも必要かもしれない。

糖質・タンパク質・脂質の理想的な比率とは

前述したように、ADAは総カロリーの糖質・タンパク質・脂質の摂取比率を撤回した。では、どうしたらよいのか?

脂質を多くとることと、心筋梗塞の発症が関係するというエビデンスはない。糖質の取り過ぎは、血糖を上げ、中性脂肪を上げ、内臓肥満につながる。その結果、高血圧、脂質異常、糖尿病の発症につながり、心血管病のリスクとなる。これらのことを考え、三大栄養素の摂取比率は、各3分の1ずつを目安にする、との考え方が一部にはある。

もちろん、食材は大切である。脂質はオメガ3系の必須脂肪酸を意識し、近海の青魚を取る。タンパク質は植物性タンパク質を多めに。理由は動物性タンパク質より腎臓に負担をかけない、というデータがあるからだ。今話題の腸内善玉菌を育てるために、ヨーグルト(100cc/日)、オリゴ糖(スプーン2杯)、食物繊維(20〜30g/日)を意識してとる。果物も取りすぎは内臓脂肪となるので、1日に片手のひらの量までとする。塩分は8g/日以下とする。

総カロリーをどう決めるか

適正体重を保つことは大切である。そのためにはカロリー過剰にならないようにする。ただ、第1回サマーセミナーで取り上げたが10)、BMI22の適正体重であっても、筋肉量が減り、プチ内臓肥満がある人が結構いるので、体組成計で自分の筋肉量を把握してほしい。筋肉減少はフレイルのはじまりで、介護状態の入り口と言われている。

表2に、適正体重に対する総カロリーの算出法を示した。

表2.適正体重(BMI 22)、総カロリーの求め方
(できれば体組成計測で筋肉量を知っておくべき100%が基準。90%以下はサルコペニア疑→将来フレイルの可能性)

適正体重: 身長(m)2 × 22  
  総カロリー: 適正体重 × 80 kcal × よく運動する人 0.5
普通の人 0.4
高齢者 0.3

例) 身長 1.65m の場合
1.65 × 1.65 × 22 = 60kg
60 × 80 × 0.5 = 2400kcal
60 × 80 × 0.4 = 1920kcal
60 × 80 × 0.3 = 1440kcal

適正体重は身長(m)×身長(m)×22 (BMI)で計算する。適正体重だとしても、筋肉量が減って、プチ内臓肥満があれば、適正体重に収まる人もいる。高齢女性には結構多い。このため体組成計で自分の筋肉量を知っておく必要がある。適正体重に対するカロリー計算は、身長1.65mの場合、適正体重は60kgで、よく運動する人は、60kg×80kcal×0.5で2400kcal、となる。普通の人は0.4を掛け1920kcalに、高齢者は0.3を掛けて1440kcalとなる。このように適正体重を基準に、年齢、運動量を加味して、自分の総カロリーを決める。

では食事をどのように考えるか

今まで述べてきたように、従来の栄養学の考え方が通用しない大変革期に私たちはいるのかもしれない。以下に現時点での食事の考え方を箇条書きにしてみる。

  1. 適正体重で筋肉量が正常範囲なら、とくに食事制限はしない。3大栄養素の摂取比率は各1/3ずつを意識する。
  2. メタボの人は、総カロリーの40%ほどの中糖限食を考える。糖質量は150〜200g/日を目安とする。1食あたり50〜65gとなる。これで適正体重まで落とす。コツはお米、パン、麺類などの主食を、今食べている量の半分にする。野菜やおかずは制限しないで食べる。できればこれらを先に食べて、ご飯類は最後に食べる。この中糖限食で、従来のカロリー制限食では減量できなかった人が、減量に成功している。
  3. すでにサルコペニアになっている人は、体重1kgにつき1.2〜1.6g/日のタンパク質摂取を意識し、筋トレを行う。ただし、腎機能低下の人には過剰のタンパク質摂取は勧められない。
  4. 腎機能低下がある人は、タンパク質を40g/日以下に制限する。ADAは腎機能低下に対するタンパク質制限をエビデンスがないとして撤回したが、日本ではタンパク質制限食にて人工透析導入を先延ばしている人たちが多くおり、タンパク質制限は腎機能低下の人には有用である。
  5. 高度肥満(BMI 30↑)の人には、まず中糖限食を試み、うまくいかなければ高糖限食(糖質50〜130g/日)まで行うか、患者と相談して決めても良いと考えている。
  6. 肥満の是正のために、極糖限ケトン食(20〜50g/日)まで行うかは、疑問がある。中糖限食までの糖質制限で効果が出るのではないかと期待しているからだ。ただ、認知症、がん、神経変性疾患などに対して極糖限ケトン食の効果が一部では言われており、今後注視していく必要がある。

最後に

日々口にする食品が、どの程度の糖質を含んでいるか知るために、「食品別糖質量」という本がある11)。患者さんには食べる時に、その本を見て、その食品の糖質量をチェックするように勧めている。そして一食当たり50〜65gの糖質摂取を意識してもらう。

質疑応答

Q.どのように糖質制限食を指導しているのですか?

A.肥満のある方には緩やかな糖質制限を指導しています。管理栄養士に依頼し、まず総カロリーの40%くらいに糖質を制限します。今までは60%ほど糖質を摂っていますので、20%は少なくなります。そうすると一食当たり糖質が50〜65g(カロリーでは200〜260kcal)になります。ご飯半膳くらいが目安です。野菜やおかずは食事の最初に、制限しないで自由に取ってもらいます。ご飯は食事の最後に取ると血糖も上がりにくいです。緩やかな糖質制限を続けると、体重は月に1〜2kg減り、内臓脂肪も減り、脂質異常、肝機能異常、HbA1Cも改善してきます。太ってもいない、筋肉量もある、という人は別に糖質を制限する必要はありません。

総カロリーの25%以下の糖質制限は今のところやっていません。ケトン食で認知症やパーキンソン病などが改善するということが、一部では言われていますが、もう少しエビデンスが出てくれば、薬では治らないので、ケトン食をやっても良いかと思っています。希望者がいれば、いつでもできるように準備はしています。

Q.肥満で、かつサルコペニアのある人に、糖質制限をするとサルコペニアは悪くなりませんか?

A. サルコペニアの改善のためには、運動とタンパク質摂取が大切です。運動をすると筋肉は増えると思っている人がいますが、タンパク質をきちんと摂っていないと筋肉は増えません。運動だけでは筋肉を壊すことになりかねないので、きちんとタンパク質を摂るように指導しています。プロのアスリートがプロテインを飲んでいるのは、筋肉再生のためにタンパク質を補給しているのです。サルコペニアの人には、腎機能に問題がなければ、1日のタンパク質摂取量は、体重1㎏につき1.2〜1.5gを勧めています。通常は1㎏につき1.0gです。運動直後に、プロテイン、アミノ酸のサプリ、牛乳などを摂るようにも勧めています。

糖質制限をしても、野菜やおかずは自由に摂ってもらいますので、タンパク質量は減らないようです。まだ十分な症例の経験がないので、糖質制限で筋肉量が減らないかは、今後検討していきたいと思います。

Q.加齢とともに筋肉量は減りますか?

A.安静にしている時も、筋肉ではエネルギーを産生しています。タンパク質が不足すると、安静時にも筋肉は壊されて減少していきます。しかし、十分なタンパク質を摂取していると筋肉は分解より合成がまさり、維持されます。筋肉量を増やすスイッチをオンにするのは、運動、特に筋トレと筋肉を構成するアミノ酸のロイシンと言われています。したがって、筋肉を増やすためには、タンパク質を十分に摂り、運動、特に筋トレが必要なのです。運動もしない、タンパク質も不足となると、加齢によりどんどん筋肉量は減っていきます。

Q.糖質制限で、食物繊維は不足しませんか?

A.糖質制限すると、脂質の摂取量が多くなることになります。糖質は制限しても、食物繊維は十分に取らなければなりません。1日20〜30gは必要です。かなり意識しないと取れませんので、野菜、海藻類、きのこ類など食物繊維の多いものを十分に取ってください。私は自分では不足していると思っているので、食物繊維をサプリでも摂っています。

文献

  1. 植木浩二郎:炭水化物制限食 -適切に活用を-. 日医ニュース No.457, 2016.4.5.
  2. Feinman RD, Pogozelski WK, Astrup A, et al.: Dietary carbohydrate restriction as the first approach in diabetes management: Critical review and evidence base. Nutrition 31: 1-13, 2015.
  3. Centers for Disease Control and Prevention. Trends in intake of energy and macronutrients. JAMA 291:1193-4, 2004.
  4. Gross LS, Li L, Ford ES, Liu S: Increased consumption of refined carbohydrates and the epidemic of type 2 diabetes in the United States: an ecologic assessment. Am J Clin Nutr 79: 774-9, 2004.
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  11. 江部康二監修:食品別糖質量ハンドブック 増補新版ーダイエット・糖質制限に必携. 羊泉社. 2016.