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論文紹介LUCUBRATIONS

息切れで初めに行う診察と処置は何か?

救急総合診療 Basic 20問 最初の1時間ですること、考えること.
寛輪良行、林寛之編集
医学書院、東京、pp.68-81, 2000.

息ぎれ患者に最初の1時間にすること・考えること

  • パルスオキシメータにてSpO2を測定
  • SpO2<90% ⇒ 血液ガス採取、結果をまたずにとりあえず1〜2l/分でO2投与を開始
  • 原因 ⇒①肺疾患、②心疾患、③それ以外、のいずれかを考えながら病歴聴取、診察を行う(図1)

(1).息切れの3つの原因

図1 息切れを見る時は、心、肺、その他、いずれに起因するかを常に考えて!
  • 急性呼吸不全か、慢性呼吸不全の急性増悪か ⇒ 病歴より判断
  • 急性呼吸不全の場合 ⇒ 高 CO2 血症の有無にかかわらす、十分なO2投与を(急性高 CO2血症では、高濃度O2投与でもCO2ナルコーシスによる呼吸抑制はこない)
  • COPD、肺結核後遺症、間質性肺炎、塵肺症、亀背などによる慢性呼吸不全の急性増悪、気管支喘息重積発作 ⇒ CO2ナルコーシスに注意し O2投与(図2)

(2).息切れの初期O2投与量

図2

CASE1夜間呼吸困難で発症した急性左心不全1例

患者:58歳、男性。それまでは健康に関する問題を感じたことはなかった。朝方4時ころ急に呼吸困難を覚えて目覚め、2時間ほど起座位をとっていたら軽快した。日中軽作業をしたが特に息ぎれは感じなかった。その夜0時ころ、再び呼吸困難で目覚め、朝方まで起座位でがまんしていたら軽快した。しかしその日は坂道をのぼるとき,動悸、息切れを感じた。その夜、前夜と同様の呼吸困難を呈し、朝受診した。第4肋間胸骨左縁にthrillを伴うLevine5度の逆流性収縮期雑音を、背部にて湿性ラ音(水泡音、coarse crackle)を聴取した。胸部X線では心拡大、肺うっ血像、胸水を認めた。急性左心不全と診断し緊急入院となる。心エコーにて腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症と診断された。

CASE2徐々に進行する息ぎれを呈した症例

患者:67歳、男性。数日前よりかぜ気味であったが、早朝、喘鳴を伴う呼吸困難が出現したために外来受診。wheezing(喘鳴音)を認め、血液ガスではPO2 74 Torr、PO2 48Torr。胸部X線では横隔膜の低位、肺過膨脹像を認めた。病歴では、20歳ころより喫煙。15年ほど前から慢性的に咳、痰を認め、10年前から労作時の息ぎれを感じるようになった。この半年は労作時に喘鳴を伴うようになり、休息してもなかなか息ぎれは軽快しなくなったという。慢性閉塞性肺疾患の急性増悪と診断した。後にスパイログラムにて混合型肺機能障害を確認した。

最初の1時間にすること。考えること

息ぎれと呼吸困難が同じことを意味するかは議論のあるところてあるが(本稿末尾のTelephone Adviceを参照)、医学用語としては息ぎれ(shortness of breath)と呼吸困難(dyspnea)は、ほぼ同義語として用いられており、本稿においても両者を同義として取り扱った。

息切れの急患を診たとき

まず考える一原因は、肺疾患か、心疾患か、あるいはその以外のものか

Michelsonら1)によれば、救急室で取り扱う息ぎれの原因疾患の88%は、気管支喘息、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎、虚血性心疾患、心因性、間質性肺疾患で占められる。したがつて、息ぎれの患者をみたときには、その原因が、肺疾患か、心疾患か、あるいはその以外のものか、を念頭におきながら以下のことを行う。

SpO2をチェック

パルス・オキシメータにより経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定する(Note1)。

血液ガス測定

血液ガス測定を行い、低O2血症、高CO2血症、pH異常などについて判断する。

酸素投与(Note2)(3)

SPO2 < 90% なら、血液ガス測定の結果をまたずに、鼻カニューレでとりあえずO2 1〜2 l/分を投与する。血液ガスの結果がでたら、酸素投与量の調節を行う(3)。プライマリケア医では、緊急の血液ガス測定ができない場合が多いと思われる。病歴上、慢性呼吸不全の病歴がなければ、O2 4〜6l/分に増量し、高次病院に搬送する。

(3)呼吸不全時の酸素投与

図3 *鼻カニューレでSpO2 > 92にならなければ、フェースマスク(6〜10l/分)あるいはリザーバー付マスク(10〜15l/分)にきりかえる。O2吸入器具により、O2流量と吸入気O2濃度(FIO2)の関係が異なる。この関係を(4)に示した。 **PCO2の上昇が進むようであれば、ベンチュリーマスク(FIO2で24〜50%のO2投与が比較的正確に可能)にきりかえO2投与を調整する。
(4)各種投与器具によるO2流量と吸入気O2濃度(F1O2)の関係
吸入器具100%O2流量(l/分)吸入気O2濃度(%)
鼻カニューレ
24
28
32
36
40
44
フェースマスク
5〜6
40
6〜7
50
7〜8
60
リザーバー付マスク
60
70
80
90
10
99
Note1 パルス・オキシメータ

手指の爪で経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を簡単に測定でき、装置も5cm四方の携帯型があり、価格も手頃である。日常診療にも役立つのでプライマリケア医でもぜひ備えておかれることをお勧めしたい。PO2とSpO2の関係はおおむね以下のようになっている。

PO2 40 Torr 50 Torr 60 Torr 100 Torr
SpO2 70% 80% 90% 98%

この関係は「40 - 50 - 60 / 70 - 80 - 90 rule」と呼ばれ対応関係を推測するのに便利な方法である。

Note2 呼吸不全時の酸素投与をどのようにするか

(3)を参照のこと。

バイタルサインをチェック

まず、意識状態、脈拍、呼吸、血圧、体温などのバイタルサインの異常をチェックする。意識の低下、血圧の低下、徐脈、ショック状態などを認めれば、静脈確保を行う。原因が明らかになるまでは、極力少ない輸血量で静脈を確保する。救命処置ができる設備がなければ高次病院への配送を手配する。

呼吸困難の起こり方、重症度の判断

  1. 起こり方:発作性か、突発性か、急性か、あるいは慢性疾患の急性増悪かなどを判断し、原因疾患をしぼりこむ(発作性、突発性、急性の区別は実際の臨床の場では難しいことも多いが、ここでは便宜的に区別して(5)に示した)。
    呼吸困難が強くて本人から十分に聴取できない場合には、付き添ってきた人からも聞く。

(5)息切れの急患ー最初の1時間にすること・考えること

  1. 重症度:重症か、比較的軽症か、について判断する。喘鳴が強く、チアノーゼがあり、起座呼吸を認めれば、一見してかなり重症であることが推測される。しかし、呼吸不全の重症度を客観的に容易に判定するには、血液ガス測定が有用である(6)。
(6)血液ガス測定による重症度判定
 
軽症
中等症
重症
PO2 ≧60 Torr(空気呼吸下) <60 Torr(空気呼吸下) <60 Torr(酸素吸入下)
PCO2 ≦30〜50 Torr 50〜55 Torr >55 Torr
pH ≧7.30 7.25〜7.30 <7.25

胸部X線検査・採血・採尿・心電図検査

呼吸困難を訴える患者には胸部X線検査を必ず行う。情報量も多い。心・肺・胸膜などの異常の有無を判断する。

末梢血(貧血、感染症の判断)、検尿、血糖、肝機能、腎機能などをチェックする。通常は病歴、診察所見により検査項目を決定するが、急患の場合は早目に採血採尿を行い、検査結果を待つ間に病歴、診察を行う。

心疾患、肺塞栓症が考えられる場合には、心電図検査、心エコー検査も行う。

発作性・突発性・急性あるいは重症の場合

手短に以下をチェックする。

随伴症状

  1. 胸痛(心筋梗塞、胸膜炎、心膜炎、肺炎、自然気胸、肺塞栓症、肺癌など)
  2. 発熱(肺炎、慢性肺疾患の感染増悪、肺結核など)
  3. 咳・痰(慢性気管支炎、肺気腫、肺結核、気管支喘息など)
  4. 血痰・喀血(肺結核、肺癌、気管支拡張症、慢性気管支炎など)

病歴

  1. 喘息、アンルギーの既往(気管支喘息)
  2. 慢性気管支炎、肺気腫などの肺疾患の既往(慢性肺疾患の急性増悪)
  3. 心疾患、心臓発作、狭心症などの既往、ジギタリスや利尿剤の使用(心疾患による肺水腫、うっ血性心不全)
  4. 刺激性ガスの吸引(刺激性ガスによる急性肺水腫)
  5. 気胸の既往(自然気胸)
  6. 血栓性静脈炎の有無、長期臥床、術後、妊娠、分娩(肺塞栓症)
  7. 糖尿病性アシドーシス、腎不全の既往(アシドーシス)

診察

  1. チアノーゼ(PO2 < 45 Torr の低い低酸素血症)
  2. バチ状指(肺気腫、間質性肺炎、肺癌、先天性心疾患など)
  3. 頸静脈の怒張(うっ血性心不全、気管支喘息でも呼気時に胸腔内圧が上昇してみられることがある)
  4. 胸郭(胸部X線検査でわかることは省略して診察):樽状胸(肺気腫)、片側の拡大(気胸、胸水)
  5. 肺の聴診
    喘鳴がある場合、呼気時に強い(wheeze)か、呼気時に強い(stridor)か、を鑑別(Telephone Advice参照)。喘鳴が軽い場合は、強制的に大きな早い呼気や吸気をさせないと聞かれないことがある。したがって、喘鳴を聞く場合は、必ず強制呼気、吸気をさせて聞く。また、分泌物で気道が閉塞されるような重症例では聞きにくくなる。
    捻髪音(fine crackle:バリバリという音)(びまん性間質性肺炎:軽症では吸気の週末のみに、重症となる呼気全相、および呼気にも聴取)、水泡音(coarse crackle:ブツブツという音)(肺炎、肺水腫、慢性気管支炎、びまん性汎細気管支炎など:吸気、呼気の両相で砲手されることが多い)、摩擦音(胸膜炎)
  6. 心臓:心雑音(各種の心疾患)
  7. 腹部:肝腫大や腹水(慢性肺疾患による肺性心、うっ血性心不全、肝硬変)
  8. 下肢:浮腫(うっ血性心不全、血栓性静脈炎)、ふくらはぎの痛みや圧痛(血栓性静脈炎)

慢性あるいはそれほど重症でない場合

上記のほかに、以下のことをチェックする。

息切れと労作との関係

  1. 労作時(心疾患、慢性閉塞性肺疾患、肺結核、 間質性肺炎、貧血など)
  2. 安静時(自然気胸、肺水腫、肺塞栓症、肺炎、胸水貯留、不安・パニックによる過換気症候群など)

呼吸困難と体位との関係

  1. 起座呼吸(orthopnea、Note3)(心不全、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪など)
  2. 偏側臥呼吸(trepopnea、Note4)(一側の高度な胸水貯留、高度な気胸、一側無気肺)

呼吸困難と時間との関係

  1. ある季節に(気管支喘息)
  2. 発作性夜間呼吸困難(paroxysmal nocturnal dyspnea, Note5)(心疾患による肺水腫)

疾患を疑わせる病歴や症状の有無

糖尿病の既往あるいは家族歴、腎不全の症状、出血や貧血の既往、尿路疾患の症状、不安発作の既往など。

Note3 起座呼吸(orthopnea)

臥位では呼吸が苦しく起座位をとる。呼吸困難が強いときにみられう。心不全や気管支喘息の発作時、COPDの急性憎悪時などに認められる。心不全では、臥位になると静脈還流が増加し、肺うっ血が増強、換気量も減少するために呼吸困難が強くなり起座位をとる。肺疾患の場合は、呼吸補助筋や横隔膜の活動が十分に行えるように起座位をとる。この場合心不全のときと比べると、前屈みの姿勢が強い傾向がある。

Note4 偏側臥呼吸(trepopnea)

一側に大量の胸水貯留があるとき、患者は胸水貯留側を下に側臥位をとる。無意識のうちに呼吸困難を軽減するためである。高度な気胸、一側無気肺でも同様である。

Note5 発作性夜間呼吸困難(paroxysmal nocturnal dyspnea)

夜寝入った後に発作的に息ぎれを感じて目がさめる。患者は横になっておれず、座ったり立ち上がって歩きまわる。空気の不足感から窓を開けたりする。喘鳴や咳を伴うこともある。この場合心臓喘息(cardiac asthma)とも呼ばれる。通常、横になってから2〜4時間で出現する。まれに一晩に数回起こることもある。日中は息切れを感じないこともある。この発作はすでに存在する心疾患による肺うっ血が、夜間の静脈還流の増大で、より増悪することで生じることが多い。

関連する症状などへの対応

喘息発作の鑑別診断

発作性に起こる呼吸困難を喘息と呼ぶ。喘息発作として重要なものは、気管支喘息と心臓喘息(心疾患によって起こる肺水腫)である。これらの鑑別については、要点を(7)に示した。

(7)喘息発作の鑑別
心臓喘息気管支喘息
一般状態しばしばショック良好
喘鳴軽い著明
呼吸困難の型呼気・吸気ともに喘鳴
発作性夜間呼吸困難
起座呼吸
呼吸時の喘鳴
呼気の延長
起座呼吸
喀痰泡沫様血痰発作後粘稠痰
診察所見湿性ラ音
(水泡音=coarse crackle)
心雑音、浮腫
乾性ラ音(笛音=wheeze)
発作の時期夜間就寝後、目をさます夜間の場合は、就寝後まもなくとか早朝に多い
季節の変わり目に多い
病歴高血圧症、虚血性心疾患、弁膜症などの既往アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、喘息発作などの既往
アレルギー疾患の家族歴
X線所見心拡大
肺うっ血像

慢性で肺気腫を伴えば
1)透過度亢進
2)横隔膜平低化

心電図頻脈
左室肥大所見
心房細動などの不整脈

頻脈
慢性で肺気腫を伴えば肺性P波・右軸偏位

気管支喘息診療におけるピークフローの有用性3)

ピークフロー(PEF、最大呼気流量)の数値により気道閉塞の程度を知ることができる。このため,気管支喘息の自己管理、発作の重症度判定、治療効果判定などにPEFが用いられている(8)。PEFは安価で簡便なピークフローメータにより測定される。PEFは実測値の予想値に対するパーセントで表現される。予想値は年齢と身長によって決められている。

(8)ピークフロー(PEF)による気管支喘息発作の重症度判定
PEF 重症度 考え方
70〜80%
軽症
自宅治療可
50〜70%
中等症
救急外来受診
50%以下
高度
救急外来受診
測定不能
重症
直ちに入院

この場合、気管支拡張薬投与後の測定値を用いる

肺塞栓症の診断はまず疑うことから

肺塞栓症は診断技術の向上とともに、本邦でも増加傾向にある。しかし、鑑別疾患として念頭になければ、ルーチン検査では異常を認めず見逃してしまうことも少なくない。術後、長期臥床、血栓性静脈炎、妊娠、分娩などの病歴のある患者に、突然の胸痛、呼吸困難をみた場合はまず疑う。心電図異常(非特異的ST-T変化)、胸部X線所見(無気肺、胸水貯留、肺炎様浸潤影)などは特異的ではない。疑いが否定できない場合は、断層心エコー(右室・右房の拡大、心室中隔圧排像)をチェックし、さ らに胸部造影 CT 検査(とくにヘリカル CT)を施行し、肺動脈血栓を確認する。

努力呼吸と呼吸困難の違いは何か

努力呼吸(labored respiration)は、呼吸困難時にしばしば認められる他覚的な所見である。努力呼吸の状態を示す言葉として、

  • 頻呼吸 (tachypnea, rapid breathing):呼吸数の増加
  • 過呼吸(呼吸克進)(hyperpnea):1回換気量の増加(神経症、過換気症候群)
  • 多呼吸(polypnea):1回換気量も呼吸数も増加(過換気症候群、肺塞栓症)
  • 過換気(換気充進)(hyperventilation):代謝性要求を上回る換気量の増大、

などがあげられる。

呼吸困難は、自覚的に不快感や苦痛を伴った努力呼吸といえる。しかし、呼吸困難はその程度が軽ければ、本人以外は気づかない。程度が強くなれば、会話中や歩行時に息遣いが荒くなったり、肩で息をするなど、努力呼吸が他覚的に認められるようになる。一方、健康な人が運動後にみせる多呼吸(polypnea)は努力呼吸ではあるが、自覚的には苦痛を伴っておらず、呼吸困難とは呼ばない。このように、呼吸困難のすべてが努力呼吸ということでもなく、また、努力呼吸のすべてが呼吸困難ということでもない。

異常な呼吸状態を示す言葉

異常な呼吸状態を示す言葉として、Cheyne - Stokes 呼吸(心肺疾患、中枢神経疾患)、Biot 呼吸(髄膜炎)、Kussmaul 大呼吸(尿毒症、糖尿病)などが知られているが、一般に意識障害を伴うため、患者は呼吸に伴う苦痛を自覚しない。このため、本来の呼吸困難とは区別されるべきかもしれない。しかし、臨床的には呼吸困難という言葉をこのような場合にも使用している人もいる。

救急診療の質の向上のために

緊急の血液ガス測定もできない状況で初期治療を担当せざるえないプライマ リケア医や救急隊員は、CO2ナルコーシス(Note6)による呼吸抑制を恐れるあまり、十分な酸素投与を躊躇してしまうことも少なくない。SpO2 < 90%なら、とりあえず鼻カニユーレでO2 1〜2 l/分を投与する。病歴上、OPD、肺結核後遺症、間質性肺炎、塵肺症、亀背などによる慢性呼吸不全(Note7)(9)や、2〜3日続いている気管支喘息、重積発作がなければ、急性呼吸不全と判断し、O2 4〜6 l/分に増量し, 高次病院へ搬送する。急性呼吸不全が, 慢性呼吸不全かの判断が困難な場合もある。この場合、現場の初期治療として、十分な酸素を投与するほうか、患者の予後はよくなると考えられる。仮にCO2ナルコーシス による呼吸抑制が生じても、挿管し人工呼吸を行えば呼吸抑制の問題は解決する。

搬送中、救急隊員はSpO2を持続的にモニターし、SpO2 > 92%を維持できるように、O2投与量を調節し、必要なら鼻カニューレからフェースマスクやリザ ーバー付マスクなどに投与器具を変える。呼吸抑制がくるようであれば、酸素駆出式人工呼吸器やリザーバーバッグ付バッグマスク人工呼吸器で人工呼吸を開始する。

プレホスピタルケアにおける十分な酸素投与は、呼吸困難患者の初期治療の重要なポイントと思われる。

Note6 CO2ナルコーシス

CO2ナルコーシスは、CO2の異常蓄積によって生ずる病態である。しかし、CO2ナルコーシスと高CO2血症は同義ではない。急性高CO2血症ではCO2ナルコーシスは起こらない(ふだんは元気な小児の喘息発作など)。慢性(2〜3日以上)に高CO2血症が持続している症例(慢性呼吸不全、気管支喘息重積発作など)では、高濃度酸素投与によってCO2ナルコーシスになる可能性がある。症状として、呼吸抑制、意識障害、発汗、けいれん、羽ばたき振戦などを呈する。

酸素投与により患者が静かになった場合は、楽になったのか、CO2ナルコーシスが生じたのか、血液ガスを含めチェックする必要がある。

Note7 呼吸不全の分類

(厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班、1981年)(9)を参照のこと

呼吸困難の症例をみた場合、1呼吸不全なのか、2呼吸不全なら、急性か慢性か、I型かII型か、を鑑別することは原因を考えるうえで重要である。

(9)呼吸不全の分
呼吸不全(PO2 ≦ 60 Torr)
持続期間1ヵ月以内
1ヵ月以上
急性呼吸不全
慢性呼吸不全※※
高CO2血症無、PCO2 ≦ 45 Torr
有、PCO2 > 45 Torr
I型(酸素化不全)
II型(換気不全)

急性呼吸不全・I型の原因には、肺炎、気管支喘息、肺水腫、肺塞栓症、ARDSなどがある。
急性呼吸不全・II型の原因には、薬物中毒、神経疾患(ポリオ、ギラン・バレー症候群)、筋疾患(重症筋無力、重症筋ジストロフイー)な どがある。I型に呼吸筋疲労が加わると、II型に移行する。
※※慢性呼吸不全の原因疾患には、COPD、肺結核後遺症、間質性肺炎、塵肺症、亀背などがある。

Caseの教訓

本例は典型的な発作性夜間呼吸困難(Note5)で発症している。腱索断裂による急性僧帽弁閉鎖不全症は、感染性心内膜炎、外傷、リウマチ熱、粘液腫性変性などが原因となる。本例の原因は不明であった。

プライマリケア医でみる呼吸困難を呈する代表的疾患は、気管支喘息、COPDの急性増悪、心不全である。本症例は病歴からは慢性気管支炎と考えられ、肺気腫の合併もあると思われる。患者自身は、慢性的に息ぎれ、咳、痰などの症状があったにもかかわらず、それらが徐々に進行してきたために、今回受診するまではあまり病的と感じていない。患者自身が病的なものとして自覚していない症状は、訴えられないことが多いので注意を要する。

Pitfallー気管支喘息・酸素投与の落とし穴

  • 気管支喘息では、軽症の場合、過換気のためにむしろPCO2は低めとなる。 中等症ではPCO2は正常値を示す。したがって、PCO2が正常の気管支喘息は中等症と推定される。
  • 難治療の気管支喘息の場合、肺炎や気胸などの合併がないか、胸部X線検査で確認する必要がある。
  • 呼吸困難の患者にとりあえず酸素を投与することは、多くの場合正しい処置である。唯一の禁忌は急性パラコート中毒である。
  • ときに酸素投与が呼吸抑制に働き、CO2ナルコーシス(Note6)をもたらし病状の悪化につながることがある。COPD、肺結核後遺症、間質性肺炎、塵肺症、亀背などによる慢性呼吸不全(Note7)(9)や、気管支喘息重積発作の症例に、酸素を投与する場合は注意が必要である。
  • しかし一方では、CO2ナルコーシスによる呼吸抑制を恐れるあまり、急性呼吸不全(Note 7)の症例に十分な酸素等よがなされない場合も少なくない。急性呼吸不全の場合は、高CO2血症の有無にかかわらず、十分な酸素等よを行う。急性高CO2血症では、高濃度の酸素投与を行っても、CO2ナルコーシスは通常起こらない。CO2ナルコーシスは、高CO2血症が慢性(2〜3日以上)に持続する場合にのみ生ずる可能性がある。
  • 呼吸不全における酸素投与法はNote2、(3)に示した。酸素投与開始後15〜30分毎に血液ガスを測定し、PO2が 60〜80 Torr、SpO2 > 92%に なるよう に投与量を調整する。慢性閉塞性肺疾患患者では普段低酸素血症に慣れているので、PO2は 55〜60 Torr、86<SpO2 <90%で十分である。慢性高CO2血症をすでに示す患者ではPCO2が 60 Torr 以上にならないように、あるいは投与前より増悪しないように酸素投与量を調整する。しかし、低酸素血症が改善せず生命がおびやかされる状態になれば、慢性高C02血症であっても、気管内挿管し人工呼吸器で高濃度酸素を投与することが重要である。

Telephone Advice

stridorとwheezeはともに日本語で「喘鳴」と訳されるが,違いは?

stridorは特に吸気時に起こる喘鳴に使用する。これは上気道の狭窄で生じ、喉頭浮腫、異物、炎症などが原因となる。wheezeは特に呼気時に起こる喘鳴にもちいられる。下気道の狭窄により生じ、肺気腫、気管支喘息、心臓喘息などが原因となる。なお、wheezing は喘鳴音である

息ぎれと呼吸困難は同じか?

若い人が軽い運動で息ぎれを訴えれば、病的症状ではないかと疑う。しかし、激しい運動後に息ぎれを訴えても、これは生理的なもので病的とは考えない。このように、息ぎれは病的症状をいつも意味しているとは限らない。人によっては、息ぎれを呼吸困難の軽いものに、あるいは運動時の息苦しさのみに用いるなど使い分けをしている。しかし医学用語としては、息ぎれ(shortness of breath, breathlessness)と呼吸困難(dyspnea)はほぼ同義語として用いられているのが現状である。

文献

  1. Michelson E,et al Evaluation of the patient, with shortness of breath: An evidence based approach Emerg Med Clin North Am 17(1): 221, 1999
    <息ぎれを主訴とする患者への evidence - based medidne にもとずくアプローチ法を説明>
  2. 寺沢秀―. 1次〜3次の救急救命センターにおける呼吸器救急の診断と治療手技. 日本胸部疾患学会雑誌 35: 39-43, 1997
    <呼吸器救急における酸素投与法,パルスオキシメータの利用法などについて説明>
  3. 永井厚志. 内科疾患:救急治療の実際一軽症から重症まで一 気管支喘息. 日本内科学会雑誌 88(12): 2336, 1999
    <気管支喘息の救急診療におけるピークフローの用い方がわかる>
  4. 相間一亥, 他. 内科疾患:救急治療の実際―軽症から重症までー 急性肺塞栓. 日本内科学会雑誌 88(12): 2342, 1999
    <最近の肺塞栓症の診断と治療について記載>