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胎児・乳児の栄養と疾患の起源~DOHaDについて~

2014.10.10

「胎児期や乳児期の生活環境と、成長後の疾患との密接な関わり」についての研究(DOHaD)が近年非常に注目されています。今回はそんな聞き慣れない「DOHaD」とは何か、最新の研究内容の一部と共にご紹介します。

DOHaD(ドハド)とは?

DOHaD(:Developmental Origin of Health and Disease)とは、『胎児期(さらには胎児になる前の胎芽期)や乳児期の環境因子が、成長後の健康や様々な疾病の発症リスクに影響を及ぼす』という概念で、国際DOHaD研究会の発足の後、日本でも2012年に日本DOHaD研究会が発足し、産婦人科のみならず各医療分野や基礎研究者の間で注目されている考え方です。

胎児期栄養が生活習慣病に影響していた

第二次大戦末期に、ナチスドイツによる出入港禁止措置のため、オランダの一部の地域では厳しい飢餓に陥り、約4か月という短期間、妊婦の多くが飢餓状態となりました。その妊婦から低出生体重児が多く生まれ、成人になっても肥満、高血圧、虚血性心疾患、腎疾患、精神疾患などに罹患していたとの驚くべき報告がありました。

その後、「生活習慣病の起源は胎児期にあるのではないか?」という仮説をもとに多くの研究者が検証を行い、最近では胎児期だけでなく乳児期の環境も成人後の疾病に影響を及ぼすことが明らかになってきました。

現代の日本では飢餓になることはほとんどありませんが、過度のダイエット等で同様の症例が見られています。

メタボリック症候群・糖尿病とDOHaD

母体の栄養不足(糖が少ない)状況下では、胎児が肥満、糖尿病になりやすいという報告が多くあります。低栄養下の胎児は、お腹の中で生き耐えようとインスリン分泌能の抑制やインスリン抵抗性の発現誘導等の適応能力を獲得し、胎内に比べて過剰な出生後の栄養摂取により耐糖能異常を有するのではないかとの仮説が立てられています。一方、母親が耐糖能異常妊娠(gestational diabetes mellitus:GDM)の場合や肥満でも、子どもの肥満の原因になると報告されています。胎児が母親の影響で過剰なグルコースの供給を受けることによりインスリンが過剰分泌すると考えられています。また、インスリンやインスリン様成長因子(IGF)が発育促進作用を示すことが肥満児(巨大児)の原因であるとの仮説もあります。

腎疾患とDOHaD

低出生体重(特に子宮内発育遅延)は慢性腎臓病、高血圧のリスクとなることが知られています。腎臓はネフロン(腎単位)と呼ばれる構造が集合してできており、通常、腎臓ひとつ当たりネフロンは25〜200万個あります。しかし、母体の低栄養(ビタミンA欠乏含む)や感染、薬剤(エタノール、ゲンタマイシン、NSAID)等の影響で胎児のネフロン数が著しく少ない状態になり、生後の高血圧や慢性腎臓病の発症起因になり得るとの見解もあります。その他、子宮外発育遅延や生後のステロイド・抗菌薬投与等も腎機能低下のリスクに繋がり、腎疾患の原因になると示唆されています。

母親の体内で何が起こっているのか?

DOHaD研究者の中では、疾病の起源は低栄養や環境因子により、胎児にエピジェネティックな変化をもたらすことである、との考え方が有力視されています。

エピジェネティクス (Epigenetics)とは、「DNAの塩基配列の変化を伴わない遺伝子発現制御の仕組みを研究する学問」であり、近年注目を浴びている研究分野のひとつです。その研究により、遺伝子のON、OFF(使う遺伝子と使わない遺伝子)を調節する仕組み(メチル化修飾による)が存在するということがわかってきました。

母親が受けた環境により、胎児の遺伝子が「ON」となるべき箇所が「OFF」になる、またはその逆の変化が起こることで将来の疾病リスクが高くなると示唆されています。

また、今年7月に行われた日本DOHaD研究会学術集会に参加した際、ゲストスピーカーである国際研究会の会長ハンソン氏は、母親のみならず父親の精子の質や精子の持つマイクロRNAの影響も強いと強調していました。

エピジェネティックと栄養素

発生過程におけるエピジェネティックな変化は細胞の分化や臓器の形成等を決定づけるものですが、塩基置換等の「突然変異」と異なり、すぐに遺伝子発現変化をもたらすとは限らず、蓄積性や環境依存性等の特徴があります。また、エピジェネティックな変化にはメチル基(-CH3)が不可欠であり、体内でメチル基を運んでいる葉酸、ビタミンB12等の栄養素が充足していることも重要な点であると示唆 されています。

今後のDOHaDについて

DOHaDに関連する疾患は今回紹介したものの他、心疾患、肝疾患、副腎系、アレルギー疾患、精神疾患など多岐に渡ります。現在、各研究機関で出生コホート研究等が 進行中です。疾病の根源を知ることで、生活習慣病等の予防・治療が更に発展すると期待されます。

【参考】診断と治療社:産科と婦人科2013.5 Vol.80 No.5

2014.09ヘルシーパス提供

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