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論文紹介LUCUBRATIONS

アンチエイジングと食

医と食 Vol.14 No.6 pp.64-69, Dec. 2022

はじめに

当院は北海道東部、北は大雪山系、西は日高山系、東南は太平洋によって囲まれた、十勝平野の中心地方都市である帯広市にある。十勝の人口は32万、帯広市は17万で、帯広市の医療圏は十勝全域にわたっている。当院は、帯広駅から車で20分ほどの南西方向にあり、隣町に接する市の外れの、緑豊かな団地の中にある。当院は不整脈・心臓病の専門医として保険診療を主体にしているが、患者サービスの一環として、2005年にアンチエイジングドックおよび医療を始めた。2010年には、北海道初の日本抗加齢医学会認定医療施設となった1)2)。現在では、男性および女性の更年期障害や高齢者の健康増進などのためにホルモン補充療法3)4)5)6)、サプリメント療法7)8)9)、および生活習慣改善指導、食事指導を行なっている10)11)

「You are what you eat」(あなたはあなたが食べたものでできている)ということわざが英語にはあるが、日本語では「医食同源」ということであろう。アンチエイジングの基本は日常的に良いものを食することであるが、何を、どのように食するかを、管理栄養士・スタッフで患者やクライヤントに指導している。本稿では、当院で実践しているアンチエイジングな栄養指導について紹介したい。

管理栄養士による減量のための「緩やかな糖質制限食」指導

2008年4月よりメタボリックシンドロームに着目した特定健診がはじまった。いわゆるメタボ健診である。この健診により肥満を指摘された患者に、当院でも管理栄養士による減量のための食事指導を行なってきた。

従来はカロリー制限食による減量指導を行っていたが、2016年からは「緩やかな糖質制限食」による減量指導を行なっている。糖質制限食の可否については過去にホットな議論が繰り広げられてきた。その経緯や実際のやり方についてはすでに詳述10)11)しているので、ここでは「緩やかな糖質制限食」について簡単に触れたいと思う。

多くの日本人はエネルギー摂取の60%を糖質より摂取している。「緩やかな糖質制限食」では、糖質によるエネルギー摂取を40%まで落とす。糖質を制限することで、血糖値が下がり、インスリン分泌が低下し、脂肪燃焼が増え、内臓脂肪が減って、体重減少や脂肪肝の改善が期待される。

当院で15か月にわたる「緩やかな糖質制限食」の減量効果を14名の患者でみたところ、男性では2.0〜7.0kg、女性では1.5〜9.0kgの減量を認めた。一方、糖質を減らした分、たんぱく質と脂質の摂取が増えたが、体重減少は認められており、減量には糖質制限が関係していると考えられた11)。「緩やかな糖質制限食」の前に、7名についてはカロリー制限食を以前行なっていたが、このうち5名については「緩やかな糖質制限食」でさらに体重減少を認め、減少幅もカロリー制限食より大きい傾向があった。患者にとってはカロリー計算にもとづいて行うカロリー制限食より「緩やかな糖質制限食」がより実行しやすいような印象をうけた。

外来での院長による簡単な「緩やかな糖質制限食」指導

管理栄養士による「緩やかな糖質制限食」の効果をみて、栄養指導を受けてもらいたいが時間が取れない患者に、外来で「緩やかな糖質制限食」のワンポイントレクチャーをおこなっている。栄養士作成のリーフレット(図1、2)を用いながら、1日の糖質は150〜200gを目安に、糖質が多いのは、ご飯、パン、麺類などの主食とケーキやお菓子類、それに清涼飲料水であることをまず理解してもらう。食べる順序は、最初に、野菜、おかず、味噌汁、スープなどを食べ、これらは制限する必要はないと強調する。最後に主食を食べてもらう。主食は今までの半分にする。スイーツは一切なし、どうしても食べたい時は、これも半分。果物は1日片手のひらサイズの量。清涼飲料水は控えて、お酒はビールや日本酒より焼酎・ウイスキー・ワインを選ぶように説明する。

図1.緩やかな糖質制限食

図1緩やかな糖質制限食 1日の糖質量は150〜200グラム

図2.緩やかな糖質制限食

図2緩やかな糖質制限食 野菜やおかずは制限する必要はありません

外来で7名に「緩やかな糖質制限食」を指導したが、7名中5名に減量効果があり、うち3名は4〜5kgの減量だった。外来でのワンポイントレクチャーでも一部には効果があることがわかった。

「緩やかな糖質制限食」の課題

「緩やかな糖質制限食」は、糖質を制限した分、脂質とたんぱく質が増えることになる。たんぱく質の腎臓に対する負荷を考える時、1.5g/kg/日 ほどが上限であろう。したがって、糖質を減らした分、多くは脂質で補うことになる。減量目的に半年から1年ほどの「緩やかな糖質制限食」は問題ないように思われるが、これが長期に行われたとき、その裏返しである高脂肪食の影響が出てこないか気にかかる12)。また2018年、米国のコホート研究が発表され、糖質摂取量と死亡率はU字関係を示し、糖質摂取比率が50〜55%で死亡率が最も低くなると報告した。また、糖質を制限した分、たんぱく質や脂肪が増えるが、その代替食品として動物性のもの(子羊の肉、牛肉、鶏肉)より植物性のもの(野菜、ナッツ、ピーナッツバター、全粒粉パン)を摂取した方が死亡率は低いとした13)

「緩やかな糖質制限食」も減量ができたら、50%ほどの糖質制限に切り替えるべきかもしれない。50%でも日本人の場合、現在60%ほどの糖質を摂っているので、糖質制限となる。また、大豆などの植物性のたんぱく質は腎症進展抑制が期待される14)ので、たんぱく源としては植物性の食材で摂ることが良いかもしれない。

サルコペニア予防のための食

2022年の厚労省の発表によると、日本人の平均寿命は、女性87.6歳、男性81.5歳で、人の世話にならず自立した生活をおくれる健康寿命(2019年)との差は、女性12.1年、男性8.8年であった。死亡前の約10年間は何らかの介護を受けている。要介護者の約25%は、脳血管障害、心疾患、ガン、認知症などの疾患を有さない、すなわち運動器障害によって要介護となっている。

運動器障害をもたらす主たる原因は、サルコペニア(筋肉減少)である。特に女性は、閉経後の骨粗鬆症に加え、サルコペニアによって転倒しやすくなり、容易に骨折を起こし、寝たきりになる例も少なくない。

当院ではサルコペニア予防のために、体組成計(InBody)にて筋肉量や内臓脂肪量のチェックを勧めている。骨格筋量が90%を切るとサルコペニアと考えられ、90〜99%はサルコペニアの予備軍として、たんぱく質の摂取と筋トレを勧めている。また、ドックなどで血清アルブミン値が4.3g/dl以下なら、フレイルに陥るリスクがあるとして15)、これもまた意識的にたんぱく質摂取を増やすように指導している。

1日に必要なたんぱく質を摂るには、卵1個、納豆1パック(40g)、魚(手のひらサイズ)、肉(牛、豚、鶏などを手のひらサイズ)、牛乳コップ1杯、などを、朝、昼、夕食のどこかで摂ることを勧めている。1つの食品に偏らないで、3食の中にこれらを組み入れると、筋肉をつくるのに必要なバリン、ロイシン、イソロイシンなどの分枝鎖アミノ酸(BACC)はじめ、体重70kgまでは各必須アミノ酸の推奨量が摂取できる。

運動には一般にウォーキングが推奨されるが、歩くだけでは筋肉は増加しない。筋肉増強のためには、ダンベル体操、ステップ運動、スクワットなどの筋トレが必要であり、栄養面からは筋肉再生に必要な分枝鎖アミノ酸を多く含むサプリやたんぱく質を運動直後に摂取することを勧めている。

腎機能維持のための食

慢性腎臓病(CKD)がなくとも加齢とともに腎機能は徐々に低下してくる。eGFRが60を切ってくると、「低たんぱく食」を意識してもらう。しかし実際のところ「低たんぱく食」の継続には、たんぱく質の計算、食材選び、など大変な努力を要する。

当院では「おかず」を減らさず低たんぱく米を使うシンプルな方法を勧めている16)。低たんぱく米は「ピーエルシー1/20」(以下ピーエルと略す)を用いている。100g中のたんぱく質は0.1g(普通ごはんは2.5g)で、節約分のたんぱく質は「おかず」でとり、ピーエルでエネルギーをしっかり確保する。体重減少、エネルギー不足がみられた場合は、MCT(中鎖脂肪酸)パウダーで補足する。減塩には、味噌・醤油・塩の三大調味料の使い方を工夫する。味噌汁1日1杯まで、醤油(減塩醤油)は「つけ醤油」で毎食小さじ1杯まで、塩・コショウは、塩なしで香辛料の利用を多くする。カリウム・リンのコントロールのため、ゆで野菜を使う、果物は1日半個、加工食品は控える、などの実行しやすい決まりをつくる。「何を、どのくらい、どうやって食べたらいいのか?」を改善できるように、数か月ごとに食事指導を継続している。指導時には、血清クレアチニン値、eGFR、24時間蓄尿検査(尿タンパク排泄量、塩分、タンパク質、カリウム、リンなどの各摂取量)を確認し、食事メモを評価して改善点を指導する。なるべく人工透析導入を遅らせて、腎機能を守り元気な生活を維持することを目標にしている。

腸を元気にする食

外来で患者にきくと意外と便秘の人が多い。便秘の人の腸内では、悪玉菌が優勢となって腐敗が進み、体にとって有害物質が産生され、病気の原因となることがわかってきた。やはり毎日いいウンチを排便したい。いいウンチとは黄色に近い黄土色の柔らかいバナナ状の便で、悪臭がなく、少し酸っぱい匂いがある。

腸を元気にするためには、腸内の善玉菌を育てる。このために善玉菌のエサとなる食物繊維を意識して毎日20〜25gはとる。と同時に、乳酸菌やビフィズス菌を含むプレーンヨーグルトを毎日100gは食べて善玉菌を腸に送り込む。納豆も1パック(50g)毎日食べる。砂糖の代わりに善玉菌の餌となるオリゴ糖をとる、などを勧めている。食物繊維の不足を野菜不足によるものと思っている人も多いが、実は穀類の摂取不足が関係している。このため、玄米(70%)+もち麦(30%)+16穀1袋(30g)を混ぜて1週間分をまとめて炊き、小分けして冷凍しておく。食べる時に電子レンジで温め、きざみとろろ昆布をふりかけて食べる。これでかなり食物繊維がとれて便通もよくなる。玄米もローカット玄米などが売られており、ふつうの白米と同じ炊き方ができる。また、腎機能低下が気になる人には、低タンパク玄米も市販されている。

ガン治療食

当院ではビタミンC点滴を行なっている。ガン患者を積極的には診ていないが、ガンの標準治療に加えてビタミンC点滴を希望する人が来院される。この時に、京都大学の元呼吸器外科教授の和田洋巳先生がガン患者に勧められている以下の基本的な食事5項目について教えている。

  1. 糖質は控える、
  2. 塩分は控える、
  3. タンパク質は大豆製品や魚でとる、
  4. 野菜・果物・きのこをたくさんとる
  5. 体に良い油をとる。

これらについて以下に簡単に説明するが、詳細は和田洋巳先生の著書を参考にしていただきたい17)18)

①は、ガン細胞はブドウ糖を唯一のエネルギー源としているので、ブドウ糖の供給を断ち、ガン細胞を兵糧攻めにすることで、ガン細胞は弱っていく、ことをねらっている。

②は、詳細は省くが「塩分を控えた食事」はガン抑制につながる。

③は、成長ホルモンに似た物質IGF-1を多く含むたんぱく質食品(肉類や乳製品など)は、ガン細胞の発生や増殖に作用すると考えられるので、これを避ける。

④は、ヒトは細胞の小器官のミトコンドリア内で、酸素と糖質や脂肪などの栄養を燃やしてATPというエネルギー源をつくって生きている。この時に活性酸素という細胞膜や遺伝子を傷つけ、ガン発生の原因になるものが発生する。野菜や果物には、ビタミンやポリフェノールと呼ばれる物質が多く含まれ、体内に取り込まれると、活性酸素を消去し、傷んだ細胞を修復して細胞をよい状態に保つ。果物は果糖を多く含み、果糖は内臓脂肪に変わるので、摂りすぎには注意。手のひらの量を目安に。きのこにはβグルカンという免疫力を高める物質が多く含まれている。免疫力が高まると、ガンの勢いは抑制される。

⑤は、青魚に多く含まれるEPAやDHA、亜麻仁油やエゴマ油に多く含まれるαリノレン酸などは、オメガ3系の不飽和脂肪酸で、体の炎症を抑える物質の材料となり、ガンが増殖しやすい環境を改善し、転移を防ぐことにつながる。

おわりに

アンチエイジング医療をはじめて約15年が経つ。その間に食の大事さを痛感し、週2回パートの管理栄養士と一緒に、アンチエイジングな食事指導を実践してきた。高齢化が進む中で、加齢とともに腎機能が低下してくる患者とフレイルで介護の入り口にいる患者がいる。その両者を併せ持つ患者もいる。低タンパク食か高タンパク食か、相反する選択が迫ってくる。そうならないように、50歳を過ぎたら未病のうちに、究極の予防医学に基づくアンチエイジングドックを毎年受けながら、その時の自分の体の弱点をみつけて是正しながら、人生100年時代の健康幸福長寿を実現したい。

文献

  1. 満岡孝雄、今野瞳、満岡孝子: アンチエイジングクリニック訪問;医療法人社団 満岡内科・環器クリニック.アンチエイジング医学ー日本抗加齢医学会雑誌 6(6):96-102, 2010.
  2. 渡邊昌:市井の名医⑧ 満岡孝雄 満岡内科・循環器クリニック. 医と食8(6):328-332, 2016.
  3. 満岡孝雄:内科医の行なうメノポーズ、アンチエイジングの試み. 更年期と加齢のヘルスケア10(1):86-93, 2011.
  4. 満岡孝雄:男性更年期障害. 更年期と加齢のヘルスケア13(1):151-158, 2014.
  5. 満岡孝雄:老い対策」としてのアンチエイジング医療〜高齢者に対するホルモン補充療法を考える〜. アンチ・エイジング医学-日本抗加齢医学会雑誌 14(6):26-34, 2019.
  6. 満岡孝雄:誌上DEBATE「DHEA補充」「Yesの立場から」. アンチ・エイジング医学-日本抗加齢医学会雑誌18(8):36-41, 2022.
  7. 満岡孝雄:ヘルスケアのキーはビタミンD !?. 更年期と加齢のヘルスケア14(1):28-35, 2015.
  8. 満岡孝雄:循環器機能の改善、向上のためのサプリメント. 更年期と加齢のヘルスケア18(1):53-59, 2019.
  9. 満岡孝雄:コロナに打ち勝つための栄養素サプリメント戦略. 更年期と加齢のヘルスケア20(1):32-37, 2021.
  10. 満岡孝雄:今、栄養学は大変革期に!? 〜糖質制限食の意味〜. 更年期と加齢のヘルスケア15(2):109-117, 2016.
  11. 小田慶子、満岡孝雄:アンチエイジング医療における運動および食事指導〜肥満解消・サルコペニア予防を中心に〜. アンチ・エイジング医学-日本抗加齢医学会雑誌 14(6):68-75, 2019.
  12. 伊藤裕. 腸!いい話.東京:朝日新聞出版;2011.p.75〜78.
  13. Seidelmann SB,Claggett B,Cheng S,et al.Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis. Lancet Public Health.2018;3;e419-e428.
  14. 太田聡,橘伸彦. 大豆たん白による腎症進展抑制への期待.医と食2016;8;24-27.
  15. 東口みづか,中谷直樹,大森芳,他. 低栄養と介護保険認定・死亡リスクに関するコホート研究 鶴ヶ谷プロジェクト.日本公衛誌2008;55;432-439.
  16. 渡邊昌.透析を遅らせる腎臓機能を保つおいしい低たんぱくレシピ.東京:主婦の友社;2011. p.6-11.
  17. 和田洋巳, 長谷川充子, 樫幸. がんに負けないからだをつくる 和田屋のごはん. 京都:WIKOM研究所; 2014.
  18. 和田洋己 監修. がんに負けないこころとからだのつくりかた. 京都:WIKOM研究所;2015.

Abstract

As a specialist in arrhythmia and cardiology, my clinic mainly provides medical services covered by health insurance. In 2005, we started anti-aging medical checkups and treatment as part of our patient services, and in 2010, we became the first medical facility in Hokkaido to be certified by the Japanese Society of Anti-Aging Medicine. Currently, we provide health promotion, supplement therapy, diet and lifestyle improvement guidance, as well as hormone replacement therapy for andro/menopausal disorders. In this paper, we would like to introduce the anti-aging nutritional guidance practiced at our clinic as follows: moderate carbohydrate restricted diet for weight loss, diet for prevention of sarcopenia, diet for prevention of renal dysfunction, diet for healthy bowels, and diet to treat cancer. After the age of 50, we encourage our patients to undergo annual anti-aging checkups based on preventive medicine to identify and correct the weak points in their bodies and to live a life of health, happiness, and longevity in the age of 100 year life spans.