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論文紹介LUCUBRATIONS

エネルギーの源ミトコンドリアを酸化から守るために

To protect mitochondria, the source of energy, from oxidation
更年期と加齢のヘルスケア Vol.21, No. 1, pp.65-69, 2022

概要

ヒトは、食物を食べて栄養素を、また呼吸で酸素を体に取り入れている。これらは最終的には細胞内のミトコンドリアに運ばれ、栄養素(糖質と脂質)と酸素が反応して二酸化炭素と水に分解される。この時にアデノシン三リン酸(ATP)というエネルギー源が作られる。ATPはアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸に分解される時、エネルギーを生む。ATPは貯蔵することができないので、必要に応じて絶えず作られていて、1日に作られる量はその人の体重に相当すると言われている。

ミトコンドリアでATPを作る時、酸素を使う。この酸素が生体にとっては害となる活性酸素を数%生み出す。活性酸素は、ミトコンドリア、核、遺伝子、細胞膜などに触れるとそれらを「酸化」させ、本来の機能を阻害する。「酸化」は「錆びる」ことと言い換えても良い。例えば、りんごの皮をむいて空気中に放置しておくと変色してしまう。これが「酸化」である。ヒトの体には活性酸素を消去する抗酸化物質が準備されているが、活性酸素と抗酸化物質とのバランスが崩れ、過剰に活性酸素が作られるとき、細胞はダメージを受け、これがガン、動脈硬化、老化などを招く。

したがって、病気・老化・ガンの予防のためには体内の抗酸化物質を増やすことが必要である。野菜・果物に含まれる豊富な抗酸化物質が活性酸素を消去してくれるので、野菜・果物を食事で積極的にとることをお勧めする。

キーワード
ミトコンドリア、ATP、活性酸素、酸化、抗酸化物質

はじめに

新型コロナ感染症によって多くの人が亡くなっている。ではなぜ亡くなるのか、このことについて考えてみたい。

1989年、学術誌「サイエンス」に熊本大学の前田教授らが「インフルエンザに感染したマウスは、インフルエンザそのものでは死なない」ということを発表した1)。インフルエンザウイルスに感染したマウスが死ぬとき、マウスの体内にウイルスは全く存在していなかった。スーパーオキシドという活性酸素が肺に大量に発生し、肺炎がおこっていた。

ウイルスが体内に侵入してくると、免疫をつかさどる白血球がウイルスを殺すために活性酸素をどんどん作る。この活性酸素がウイルスを攻撃し、排除しようとする。一方で、活性酸素は肺を傷つけ肺炎を起こす。したがって、ウイルスは引き金で、マウスが死んだのは活性酸素が原因と前田らは考えた。

そこで、活性酸素を消去する抗酸化物質をマウスに与えた。するとインフルエンザウイルスに感染したマウスの95%が生存した。このことで、マウスを殺すのはウイルスそのものではなく、活性酸素であることを証明した。体を守ろうとする免疫反応が過剰になると、活性酸素の破壊力が増し、病気をひきおこすことになる。

それでは、新型コロナ感染症によってヒトはなぜ亡くなるのか? 新型コロナウイルスそのものが肺を破壊しているのではなく、サイトカインストームによるとの報告がある2)。ウイルスはヒトの細胞に入り込み増殖していく。この過程で免疫細胞はウイルスと戦うためにサイトカインを放出し、活性酸素を発生する。この活性酸素はウイルスを攻撃し感染を抑えようと働く。サイトカインが制御できないほどに放出され続けると、過剰な免疫反応が生じ、大量に発生した活性酸素は自分の細胞までも傷つけてしまう。これがサイトカインストームとよばれるもので、重症の肺炎をおこし、他の臓器にも大きなダメージを与える。このように新型コロナ感染症でも過剰の活性酸素は病気の重症化に大きく関係していると考えられる。

サイトカインストームがおこらないように、免疫が最適に働くように、マルチビタミンミネラル、ビタミンC、D、亜鉛、などのサプリメントや、ファイトケミルを多く含む野菜や果物などの食品を取ることを筆者はお勧めする3)

ミトコンドリアと活性酸素

ヒトが生きていくためにはエネルギーが必要である。例えば、見る、聞く、考える、体温を維持する、睡眠をとる、これらはすべてにエネルギーを使っている。 ヒトは食物を食べて栄養を、また呼吸で酸素を体に取り入れている。これらは最終的には細胞内のミトコンドリアに運ばれる。図1に示すように4)、ミトコンドリアの電子伝達系では栄養素(糖質と脂質)と酸素が反応して二酸化炭素と水に分解されるが、この時にATPというエネルギー源が作られる。呼吸で吐き出される二酸化炭素はミトコンドリアが放出したものである。ミトコンドリアはいわば生体のエネルギー生産工場と言える。ATPはADPとリン酸に分解される時、エネルギーを生む。ATPの合成には酸素を利用するので、一般的に好気性代謝と呼ばれているが、これが体のエネルギー産生の95%を占めている。ATPは貯蔵することができないので、必要に応じて絶えず作られていて、1日に作られる量はその人の体重に相当すると言われている。

図1.電子伝達系でつくられるエネルギーと活性酸素およびCoQ10

図1電子伝達系でつくられるエネルギーと活性酸素およびCoQ10 ミトコンドリアの電子伝達系では栄養素(糖質と脂質)と酸素が反応してATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー源が作られる。ミトコンドリアでATPを作る時、酸素を使うが、この時生体にとっては害となる活性酸素を数%生むことになる。ミトコンドリアでエネルギーを作るとき、コエンザイムQ10が不可欠である。CoQ10は電子伝達系で電子の授受に関与してATP合成の効率を高める補酵素として働いている。

ミトコンドリアでATPを作る時、酸素を使う。この酸素が生体にとっては害となる活性酸素を数%生むことになる。しかも活性酸素の90%はミトコンドリア内で発生する(図1)。発生した活性酸素はミトコンドリアそのものも傷つけ、ミトコンドリアの機能低下を招き、このことが活性酸素のさらなる発生につながる。

活性酸素は、ミトコンドリア、核、遺伝子、細胞膜などに触れるとそれらを「酸化」し、本来の機能を阻害する。「酸化」は「さびる」と言い換えても良い。例えば、りんごの皮をむいて空気中に放置しておくと変色してしまう。これが「酸化」である。ヒトの体には活性酸素を消去する抗酸化物質が準備されているが、活性酸素と抗酸化物質とのバランスが崩れ、過剰に活性酸素が作られるとき、細胞はダメージを受け、これがガン、動脈硬化、老化などの原因となる。

CoQ10

ミトコンドリアでエネルギーを作るとき、コエンザイムQ10(以下CoQ10と略す)が不可欠である。CoQ10は電子伝達系で電子の授受に関与してATP合成の効率を高める補酵素として働いている(図1)。また、CoQ10は体内のあらゆる場所に存在し、ビタミンEやビタミンCと並んで重要な抗酸化物質の一つでもある。

活性酸素を減らすには、元気なミトコンドリアの数を増やし、その機能を高めればよい。そのためには、適度の運動、(過度の運動は活性酸素の発生量をかえって多くする)、糖質を摂りすぎない(糖質の摂りすぎはミトコンドリアの機能を低下させる)、CoQ10の不足を避ける、などが必要である。ミトコンドリアが少なかったり、元気のないミトコンドリアが多いと、細胞のエネルギーが不足し、体の元気がなくなり、病気になったり、老化が加速する。

CoQ10は加齢とともに減少する。臓器によっても異なるが、20歳を100%とすると、心臓では40歳では58%に、80歳では43%まで減少する4)。基本的には、食事からCoQ10を摂取することになるが、イワシ、豚肉、牛肉、オリーブオイルなどに多く含まれる。

CoQ10をサプリメントで補給することもできる。

心不全患者に対するCoQ10の効果を紹介する。この研究は二重盲検試験で、中等度から重症の心不全患者420名を対象に、CoQ10 300mg/日投与群とプラセボ群の2群に分けて2年間観察した。16週では心機能に両群で差はなかったが、2年間では、心血管イベントの発生率は、CoQ10群で15%、プラセボ群では 26%とCoQ10群で有意に低く、また心不全による入院期間の短縮、心不全の重症度改善もCoQ10群でみとめられた。副作用は認めず、心不全の補完治療としてCoQ10は利用できると結論づけている5)

この他に、線維筋痛症患者の疲労度の改善6)、ドライマウス症状の改善7)、血中CoQ10濃度が低いと認知症発症リスクは2倍となる8)、などが報告されている。CoQ10はもともと体内にあるものなので、サプリメントによる副作用はない。また、健康長寿に効果的な素材とも考えられている。

CoQ10とスタチン

ここでCoQ10とスタチンの関係についても触れておきたい。HMG-CoA還元酵素阻害薬とよばれる薬の総称であるスタチンは、肝臓におけるHMG-CoA還元酵素を阻害することで、コレステロール合成を抑え、主に血液中の悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールを低下させ、動脈硬化を予防する。スタチンは広く臨床で使われている。図2のようにスタチンはコレステロールを抑制すると同時に、CoQ10の生成も抑制する。このためCoQ10が不足して筋肉痛や疲れやすいなどの症状が出やすくなる。米国では、スタチンを服用している人にはCoQ10のサプリメントも同時に摂取するよう勧めている。

図2.CoQ10とスタチン

図2CoQ10とスタチン HMG-CoA還元酵素阻害薬とよばれるスタチンは、肝臓におけるHMG-CoA還元酵素を阻害することで、コレステロール合成を抑える。と同時に、スタチンはコエンザイムQ10(CoQ10)の生成も抑制する。このためCoQ10が不足して筋肉痛や疲れやすいなどの症状が出やすくなる。米国では、スタチンを服用している人にはCoQ10のサプリメントも摂取するよう勧めている。

体が酸化すると

前述したが、一般的には、酸化とは「さびる」というイメージである。鉄釘が酸化すると錆びた釘になり、りんごをカットして空気中に放置しておくと酸化して褐色になる。活性酸素はミトコンドリアでエネルギーを作るときに酸素が変質してできたもので、この活性酸素が体内のいろんな物質を、例えば細胞膜、ミトコンドリア、核などを攻撃して酸化し、機能の劣化を招く。

細胞膜はほとんど脂質で作られているが、脂質が酸化すると細胞膜が変質し、体を作っているたんぱく質が酸化すると変性し、細胞は正常の働きを失い、動脈硬化、心疾患、脳卒中などの原因となる。体に必要な物質を作る時、またエネルギー産生の時などに酵素を必要とするが、この酵素が酸化されるとその働きを失い、老化が促進される。遺伝子のDNAが酸化されると損傷を受け、遺伝子の複製がうまくいかなくなり、ガンの発症にむすびつく。

活性酸素の大部分はミトコンドリアで発生するが、そのほかに活性酸素の原因になるものは、車の排気ガス、ウイルスや細菌による感染、食品添加物、薬などの化学物質、怒り・悲しみなどのストレス、たばこ、紫外線、農薬に汚染された食物などがある。

抗酸化物質の減少が老化をまねく

人はもともと活性酸素を消去する力を持っており、これはスカベンジャー、あるいは抗酸化物質とよばれる。スーパーオキサイド・ディスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオン・ペルオキシターゼなどが体に備わっている主な抗酸化物質である。これらが私たちを病気や老化から防いでいる。しかし、これら体内の抗酸化物質は加齢とともに減っていく。言い換えれば、年齢とともに体がさびていくことになり、これが老化と考えられている。簡単にいうと、活性酸素が抗酸化物質よりも多いと、体がさびて病気・老化・ガンのリスクがあがる。反対に体の中の抗酸化物質が活性酸素より多ければ、病気・老化・ガンのリスクは低くなる。したがって、病気・老化・ガンの予防のためには体内の抗酸化物質を増やすことが必要である。

抗酸化物質を増やすには

野菜・果物に含まれる豊富な抗酸化物質が活性酸素を消去してくれるので、野菜・果物を食事で積極的にとるのがよい。これらに含まれる代表的な抗酸化物質として、ファイトケミカルとよばれる、フラボノイド、ポリフェノール、カロテノイド、またビタミンとしてはビタミンA、C、E、このほかにグルタチオンなどがある。これらの物質はもともと紫外線や害虫から自らを守るために植物が作り出した物質であり、植物の色素や香り、苦味などを構成している。

ファイトケミカルの代表的なものは、トマトに含まれるリコピン、ほうれん草のルテイン、人参やカボチャのカロテノイド、大豆のイソフラボン、緑茶のカテキン、玉ねぎのケルセチンなどである。ファイトケミカルは1万種以上もあるといわれている。

ファイトケミカルはガンに対しては、①遺伝子を傷つける活性酸素を消去、②発ガン物質を解毒、③ガン細胞の増殖を抑える、④免疫力を強化する、などの作用をもつ。

サラダより野菜スープ

それでは野菜をどのような形で摂れば、しっかりと抗酸化物質を体に吸収できるのか?サラダより野菜スープの方が、抗酸化力が10倍〜100倍も強いと報告されている(9)。生の野菜を食べると有効成分は未消化のまま排泄され、加熱すると野菜の有効成分が吸収されやすくなる。その理由は、生の状態で食べた時、中にある細胞膜は壊されにくいために、有効なビタミン・ミネラルは一部しか吸収されない。ところが加熱すると、細胞膜が壊されて中の有効成分が体に吸収されやすくなる。加熱するとビタミン類が壊されるのではないかと思われるが、ファイトケミカルやビタミンC、Eなどの抗酸化物質の働きでビタミン類やファイトケミカルは壊れないと報告されている。

野菜スープの食べ方はいろいろあると思われるが、ポタージュにしても、あるいは具沢山のスープにしても効果は変わらず、好みによって決められると良い。もし味がいまいちであれば、市販のスープの素などを加えられてもよいかと思う。

おわりに

私たちの体は食べた物でできている、ということを日々の生活で意識することは少ないのではないだろうか。良いものをとれば体は健康になり、出来合いやインスタントなどの食品が多くなると、ビタミンやファイトケミカルなどが不足し、健康を損なうことになりかねない。野菜が安い時に、または野菜が残った時に、野菜スープを作っておき、1回量250mlに小分けして冷凍し、毎日それを1〜2回食べるのが、抗酸化物質を補給して老化を先送りする一つの方法かと思う。サプリメントの摂取も必要なこともあるが、基本はあくまで日々のバランスのとれた食事にあることを見直したいものである。

文献

  1. T Oda, T Akaike, T Hamamoto, et al: Oxygen radicals in influenza-induced pathogenesis and treatment with pyran polymer-conjugated SOD Science.244(4907):974-6, 1989.
  2. T Hirano, M Murakami: COVID-19: A New Virus, but a Familiar Receptor and Cytokine Release Syndrome. Immunity 52(5):731-733, 2020.
  3. 満岡孝雄:コロナに打ち勝つための栄養素サプリメント. 更年期と加齢のヘルスケア20(1):32-37, 2021.
  4. 菅野直之:コエンザイムQ10 日歯周誌 59(2):63-67, 2017
  5. Mortensen SA, Rosenfeldt F, Kumar A, et al: The effect of coenzyme Q10 on morbidity and mortality in chronic heart failure: results from Q-SYMBIO: a randomized double-blind trial. JACC. Heart Failure. 2(6):641-9, 2014.
  6. Mehrabani S, Askari G, Miraghajani M, et al.: Effect of coenzyme Q10 supplementation on fatigue: A systematic review of interventional studies. Complement Ther Med 43:181-187, 2019.
  7. Ushikoshi-Nakayama R, Koufuchi R, Yamazaki T, et al.: Effect of gummy candy containing ubiquinol on secretion of saliva: A randomized, double-blind, placebo-controlled parallel-group comparative study and an in vitro study. PLoS One 14(4):e0214495, 2019.
  8. Yamagishi K, Ikeda A, Moriyama Y, et al.: Serum coenzyme Q10 and risk of disabling dementia: the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). Atherosclerosis 237(2):400-3, 2014.
  9. 前田浩:最強の野菜スープ, マキノ出版 P42, 2017.