アンチエイジングひとりごと十勝毎日新聞連載

十勝毎日新聞に「Dr.ミツオカのアンチエイジングひとりごと」というコラムで連載をはじめました。どうぞお読み下さい。

シリーズ目次

  1. 糖質制限食でメタボ解消!
  2. 血糖値スパイクは老化を促進
  3. 食生活改善でがんに負けない体を
  4. 健康維持に欠かせないビタミンD!
  5. 知って得する更年期の知識

糖質制限食でメタボ解消!

「糖質制限食でメタボ解消!1」

十勝毎日新聞2016年10月17日号

最近、NHKテレビのクローズアップ現代で、「糖質制限ブーム!〜あなたの自己流が危険を招く〜」という番組が放映されました。メタボに悩む中高年や女性たちに「主食抜き」の糖質制限が流行しているというのです。主食の米、パン、麺類、あるいはおやつのスイーツを減らすことで、手軽に減量できる反面、極端な糖質制限に走った結果、体調を崩す人も出てきている、とのことでした。

また、これも最近のことですが、新聞広告に「低糖質メニュー新登場」という見出しで、糖質制限食を宅配する宣伝が出ていました。

医療関係者が知らないうちに、糖質制限食は世間に広まっているようです。

今年になって日本医師会は、患者さん向けニュースレター「健康ぷらざ」で、「炭水化物制限食〜適切に活用を〜」という見出しで、初めて糖質制限食を取り上げました。その中で糖質制限食を容認するとともに、状態によっては適さない人もいるとコメントしました。

炭水化物は糖質と食物繊維で構成されています。主食にしている、米、パン、麺類などの食品は、食物繊維は少なく、糖質がほとんどです。炭水化物制限食と糖質制限食とは、ほぼ同じ意味合いと考えてよいでしょう。ここでは炭水化物の代わりに糖質という言葉を用いました。

糖質が多くなると、血糖が上昇し、使われなかった血糖は中性脂肪としてお腹に蓄えられ、内臓肥満を招きます。これが高度になると、メタボ(メタボリック症候群)を引き起こし、高血圧、脂質異常、糖尿病などの発病につながります。

これらの病気は動脈硬化を促進し、心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病を増加させます。これと反対に、糖質を制限しますと、血糖は低下し、内臓脂肪がエネルギー源として利用されて内臓肥満が改善し、高血圧、脂質異常、糖尿病なども良くなってきます。
(毎月第1、3月曜に掲載)

「糖質制限食でメタボ解消!2」

十勝毎日新聞2016年11月7日号

ここで糖質制限食が出てきた歴史的背景についてお話しします。米国糖尿病学会は、糖質摂取比率を1950年の40%から、71年には45%、さらに86年には60%まで増やすことを推奨しました。食事中の脂肪が、血液の飽和脂肪酸を増加させ、心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病の増加をもたらしている、と考えられたからです。食事中の脂肪を減らした分、糖質の摂取率が多くなっていったのです。

一般に糖尿病食はヘルシーな食事と考えられていましたので、米国人の糖質摂取量は、30年間で、男性は42から49%へ、女性は45から52%へ、と増加しました。これに伴い、30年間で糖尿病の発病は、300万人から800万人へと増えたのです。

米国における糖尿病の増加に危機感をもった研究者たちは、糖質の増加がその主因ではないかと疑いはじめました。糖質の制限が糖尿病を減らすとの考えに立ち、研究を続けました。

その結果、次のようなことが分かってきたのです。糖質制限食は血糖低下に最も有効。肥満や2型糖尿病患者の摂取カロリーの増加は、糖質摂取の増加による。糖質制限食は優れた減量食でもある。血液中の飽和脂肪酸(中性脂肪中の)は、低脂肪食より糖質制限食によって、もっと低下する。糖質制限食で中性脂肪は下がり、善玉コレステロール(HDL-C)は増加する。また、食事中の脂肪と心筋梗塞の発病は相関しないことも分かってきました。


「糖質制限食でメタボ解消!3」

十勝毎日新聞2016年11月21日号

増え続ける糖尿病に対し、米国糖尿病学会は対策を打ち出します。

1994年、糖質と脂質の摂取比率を撤廃し、タンパク質については、総カロリーの10〜20%にするとしました。この10年後、血糖に関係するのは糖質のみであるとし、糖質をとった場合、2時間以内に100%血糖に変わる、という見解を示したのです。

以前は、タンパク質の半分が、脂質の10%が、血糖に変わるという見解を示していたのですが、これを否定しました。さらに約10年後の2013年には、糖質制限食を容認したのです。ただし、1日130g以下の糖質制限は推奨しない、とコメントしました。

また、糖質、脂質、タンパク質の総カロリーに対する理想的な比率のエビデンスはないとして、摂取比率を撤廃してしまったのです。

糖尿病性腎症で腎機能が低下した例に対しても、エビデンスがないとして蛋白制限を撤廃してしまいました。

しかし、これには賛成できません。日本では、厳格なタンパク質制限食で人工透析を先延ばしている多くの症例があります。腎機能低下例には、1日40g以下のタンパク質制限は必要と思います。

「糖質制限食でメタボ解消!4」

十勝毎日新聞2016年12月5日号

高齢者の筋肉減少(サルコペニア)は、介護状態の入口とされ、現在大きな問題となっています。筋肉減少のない人のタンパク質摂取量は、一日体重1kg当たり0.8〜1.0gが目安です。

筋肉減少の改善のためには、腎機能に問題がなければ、一日体重1kg当たり1.2〜1.5gのタンパク質摂取と筋トレが推奨されます。糖質を制限した分、脂肪を増やすのか、タンパク質も増やすのか、腎機能や筋肉量を考慮する必要があります。なお、筋肉量は体組成計を用いると簡単に測定することができます。

結局、今の栄養学では三大栄養素をどの位の比率でとったら良いかということは示されないままでいます。アンチエイジング医療に関わる栄養学に詳しい医師は、健康な人は、糖質、脂質、タンパク質の摂取比率は各3分の1ずつで良いのではと考えています。

2015年に厚労省が示した食事摂取基準では、三大栄養素の推奨摂取比率は、糖質60%、タンパク質15%、脂質25%です。

糖質制限には、この糖質60%を10%以下にする極端なものから、40%程度にする緩やかなものまで様々です。腎臓への影響を考えると、タンパク質の量は通常そんなに増やせません。糖質を制限した分、脂質が結果的には増えることになります。

「糖質制限食でメタボ解消!5」

十勝毎日新聞2016年12月19日号

糖質制限食は、糖質制限の程度によって、極度、高度、中等度の3段階に分類すると分かりやすいでしょう。

極度は、糖質を総カロリーの10%以下に制限するものです。一日の糖質は20〜50gになります。このレベルでは、多くの人でケトン体が出て、エネルギー源として利用されるといわれています。ただ赤血球はエネルギー源としてブドウ糖しか利用できませんので、糖質ゼロというわけにはいきません。

高度は、総カロリーの10〜25%に糖質を制限するものです。1日の糖質は50〜130gで、このレベルの糖質制限ではケトン体はでないと言われています。

先にも述べましたが、米国糖尿病学会は一日130g以下の糖質制限は推奨していません。したがって、極度、高度の糖質制限食は、試してみるにしても医師の指導のもとにやるべきです。

中等度は、総カロリーの25〜40%に糖質を制限するものです。

メタボの人には、まず40%の緩やかな糖質制限食を勧めています。総カロリーによって摂取する糖質量は変わりますが、1日の糖質量は150〜200gになります。一食当たり、ご飯なら茶碗半分、食パンなら一枚、麺類ならどんぶり半分、ということになります。間食にスイーツをとるなら、ケーキ半分です。

これで一日の糖質摂取は終わりです。野菜やおかずは制限する必要はありません。果物は手のひらサイズの量です。これらの食品にも糖質はいくらか含まれていますが、それは気にしないでよいでしょう。これなら実行可能のようで、今まで栄養指導をしても、減量できなかった人が、月に1〜2キロ減量できています。

「糖質制限食でメタボ解消!6」

十勝毎日新聞2017年1月16日号

内臓肥満で悩んでいる人は、とりあえず今摂っているお米、パン、麺類、スイーツ、ビール、など糖質の多い食品をすべて半分にすることから始めたらいかがでしょうか。ただし、現に薬を飲んで治療をしている人は、主治医や管理栄養士と相談しながらやって下さい。特に糖尿病で治療をしている人は、低血糖を起こすことにもなりかねません。

減量は月に2〜3kgまでにして下さい。急激に減量すると体調を崩しかねません。もう一つ注意しなければならないことは、減量では内臓脂肪を落としたいのですが、脂肪ではなく筋肉を落とすことがよくあります。筋肉を落とさないためには、運動をしながら糖質制限をして下さい。できれば1日40分、週4日のウォーキングがおすすめです。

糖質制限食で、適正体重まで減量できたら、あとは適正体重を維持します。1日に必要な総カロリーはきちんととり、筋肉維持のために運動は続けましょう。

適正体重の算出法は、22(BMI)×身長(m)×身長(m)です。例えば、身長1.70mなら、22×1.7×1.7=64kgです。BMI 20以下はやせ過ぎです。

1日に必要な総カロリーの算出法は、適正体重×80×0.4です。前述の例では、64×80×0.4=2048キロカロリーです。最後の0.4は、普通の人の場合ですが、よく運動する人は0.5を、高齢者は0.3をかけて下さい。

極度の糖質制限食は、一般にケトン食ともいわれています。このケトン食が、認知症、がん、パーキンソン病などに効果あるということがいわれています。これについては、もう少しいろんな研究成果が出てくるまで、試すのは待ってもよいかと考えています。

最後に、どんな食品にどの程度の糖質が含まれているか、すぐに分かる優れた本があります。「食品別糖質量ハンドブック」(江部康二監修、洋泉社、2012年、800円)という本です。何か食べる時は、それを見て糖質量を確かめてから、口に入れるようにしています。

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