アンチエイジングひとりごと十勝毎日新聞連載

十勝毎日新聞に「Dr.ミツオカのアンチエイジングひとりごと」というコラムで連載をはじめました。どうぞお読み下さい。

シリーズ目次

  1. 糖質制限食でメタボ解消!
  2. 血糖値スパイクは老化を促進
  3. 食生活改善でがんに負けない体を
  4. 健康維持に欠かせないビタミンD!
  5. 知って得する更年期の知識

血糖値スパイクは老化を促進

「血糖値スパイクは老化を促進1」

十勝毎日新聞2017年1月30日号

最近、「血糖値スパイク」がテレビ番組でよく取り上げられています。健康上、大事な問題ですので、少し掘り下げて「血糖値スパイク」を考えてみたいと思います。

「血糖値スパイク」は、英語の「Blood Glucose(あるいはSugar)Spikes」の直訳です。食後に血糖値が正常範囲を超えて上昇することを指しています。医学的には食後高血糖と言っています。英語ではスパイク(ス)と複数になっていますので、食後に高血糖が繰り返し起こっていることを意味しています。

では食前(空腹時)の血糖はどうでしょうか。正常(110mg/dl未満)の人もいれば、高い人もいます。食後は誰でも血糖は上昇しますが、正常では140mg/dlを超えることはありません。ところが、食後にそれ以上に血糖が上昇し、それが食事のたびに繰り返されるのです。これが「血糖値スパイク」です。また、食前と食後の血糖値の差が大きいほど間題となります。

それではどういう人が食後高血糖を起こすのでしょうか。糖尿病や糖尿病予備軍(医学的には耐糖能異常と言っています)の人たちです。

でも今テレビで問題にしているのは、本人は健康と思っていたのに気付かないうちに糖尿病やその予備軍になっている人がいるということです。もちろん、健診や人間ドックを受けていれば、早期に発見される可能性が高いのですが、空腹時血糖が正常な人は見逃されてしまうかもしれません。職場や市町村でやっている特定健診は40歳以上が対象ですので、それより若い人たちは自分で健診や人間ドックなどを受けないと、知らないうちに糖尿病やその予備軍になっているかもしれません。

特定健診では空腹時血糖とヘモグロビンA1c(HbA1C)も調べています。空腹時血糖が110ml/dl未満、HbA1cが5.5%以下なら正常、空腹時血糖が126mg/dl以上、HbA1cが6.5%以上なら糖尿病と判定されます。空腹時血糖が110〜125、HbA1cが5.6〜6.4%は糖尿病予備軍の疑いがあることになります。

「血糖値スパイクは老化を促進2」

十勝毎日新聞2017年2月20日号

この疑いを明らかにするために、75gブドウ糖負荷試験(OGTT)を行います。ブドウ糖75gの入ったジュースを飲んでもらい、前および後の30分、60分、120分にそれぞれ採血し、血糖とインスリンを測定します。

後120分の血糖が200mg/dl以上は糖尿病型、140〜200mg/dl未満は境界型(糖尿病予備軍)と判定します。また、後60分の血糖が180mg/dl以上なら予備軍の可能性があります。

OGTTでは血糖を下げるホルモンであるインスリンも測定しますので、なぜ糖尿病やその予備軍になったかも知ることができます。通常はインスリンの分泌が少ない、あるいは分泌は十分であってもインスリンの効き目が悪いことが原因になります。この効き目が悪いことを医学的には「インスリン抵抗性がある」といっています。

しかし、OGTTは2時間もかかりますので、現役世代は時間がとれず、受けない人もいます。健診で糖尿病予備軍の疑いが出ても、この検査を受けないでいると、知らないうちに病気が進行していくこともあるのです。風邪などで病院にかかり、尿糖が出ていたら、調べてもらった方が良いでしょう。尿糖は血糖が170〜190mg/dl以上の高血糖にならないと出てきません。

糖尿病予備軍では、多くが「血糖値スパイク」を起こします。「血糖値スパイク」が続くといつしか糖尿病になってしまうこともあります。では「血糖値スパイク」そのものは体にとって問題はないのでしょうか?もちろん大問題で、体にとって有害であることが最近の研究でわかってきました。

「血糖値スパイクは老化を促進3」

十勝毎日新聞2017年3月6日号

「血糖値スパイク」が続くと血管が傷つくことがわかっています。

高血糖によって血管の中では大量の有害な活性酸素が発生します。この活性酸素は細胞膜や細胞の遺伝子を傷つけます。血管の一番内側には内皮細胞があり、血管の機能を正常に維持しています。活性酸素によってこの内皮細胞が傷つけられると、傷ついた内皮細胞を修復するために、免疫細胞が内皮細胞に入り込み、血管の壁が盛り上がり、これを繰り返すことで動脈硬化が進行します。

また、血管の末端にある毛細血管を高血糖の血液が流れると流れがとどこおり、組織は酸素や栄養が不足し、末端の臓器である目、腎臓、神経、肌、などに障害をもたらします。

もう一つ高血糖には大きな問題があります。それは多くて処理できなかった糖とタンパク質が結びつき、体温の作用で糖化産物ができることです。

糖化とは、わかりやすく言えば「コゲる」ことです。例えばお米を炊きすぎてコゲる。あるいはホットケーキを焼きすぎてコゲる。このコゲが糖とタンパク質が加熱されてできた糖化産物です。糖尿病はHbA1cという検査値を指標に治療しますが、このHbA1cも糖化産物の1つです。

糖化は、初期の段階なら血糖が下がれば、正常なタンパク質に後戻りしますが、高い血糖が続けば後戻りができなくなり、この結果、終末糖化産物(AGE=Advanced Glycation End Products)ができます。

この終末糖化産物が血管に蓄積すると、動脈硬化が進行し、あるいは肌に蓄積すると、肌の弾力性が低下して透明感のないくすんだ肌になります。また、脳の中のタンパク質と糖が結びつくと、アルツハイマー病の原因となるβアミロイドなどの産生が増加し、認知症のリスクが高まります。

「血糖値スパイクは老化を促進4」

十勝毎日新聞2017年3月20日号

アルツハイマー病については、脳は通常はブドウ糖をエネルギー源としていますが、インスリンが不足したり、インスリンの効き目が悪くなると、脳細胞はエネルギー源のブドウ糖を利用できなくなり、これが認知機能を低下させ、アルツハイマー病の発症に結びつくという考え方もあります。

アルツハイマー病にならなくても、認知機能は高血糖で低下することが報告されています。また、高血糖により脳の動脈硬化が進み、脳の血管がつまったり(脳梗塞)、あるいは弱くなって出血(脳出血)をおこしたりします。これによって脳の働きが低下し、認知症が発症したりします。半身不随を起こさないような小さな脳梗塞でも、何か所にもおこると、認知症につながってきます。

また、インスリンの効き目が悪いということは、血液中にインスリンがたくさん流れることにもなります。これを高インスリン血症と言っていますが、インスリンはもともと細胞の増殖に関係しています。したがってガン細胞の芽がある人は、このインスリンがガン細胞の増殖を促進することになります。いずれにしても、高血糖や高インスリン血症などの問題はいろいろな病気に結びついていくことになります。

肥満になると蓄積した内臓脂肪から悪玉のホルモンが出て、インスリンの効き目が悪くなります。しかも欧米人のようにBMIが30以上の高度肥満でなくても、日本人の場合、軽度の肥満でもインスリンの効き目が悪くなることが知られています。

膵臓から血糖を下げるホルモンのインスリンが正常に分泌されても、メタボの人はインスリンの効き目が悪くなっているのです。このために食後に血糖の処理がうまくいかず高血糖になるのです。

「血糖値スパイクは老化を促進5」

十勝毎日新聞2017年4月3日号

肥満が無い人には食後高血糖は起きないのでしょうか。そうではありません。標準体重の人でも、隠れ肥満が結構あることが知られています。特に更年期以降の女性には、筋肉量が減り(サルコペニアといいます)、内臓脂肪が蓄積してお腹が少し出ている(プチメタボ)、すなわちサルコペニア+プチメタボの人がいます。

プチメタボがあるとインスリンの効き目も悪くなってきます。その上、加齢に伴いインスリンの分泌量も低下してきます。インスリン分泌の低下とともに、インスリンの効き目が悪くなって、食後高血糖がおこってくることもあるのです。

また、高齢者に限らず、痩せ志向のつよい若い女性にも、筋肉量が少なくなっている人がいます。筋肉はインスリンとは関係なく、糖を筋肉内に取り込むことができますが、筋肉量が少ないと筋肉内に糖を取り込むことが少なくなり、高血糖となることも知られています。

特に甘いものや清涼飲料水が大好きな若い女性は、高血糖になるリスクはさらに高くなります。

また最近では、腸内細菌のうち悪玉菌が多い人は、血糖が高くなりやすいことも報告されています。普段から便秘や軟便の人は、腸内の善玉菌を育てる工夫が必要です。1日に食物繊維を20g以上、野菜、キノコ類、納豆、海藻類など繊維質の多い食物を積極的に摂ることが大切です。

また、善玉菌を腸に送り込むために、ビフィズス菌や乳酸菌などの入ったプレーン・ヨーグルト1日100gをとってください。年齢と共にビフィズス菌は少なくなることが知られていますので、ビフィズス菌がオススメかもしれません。また、ビフィズス菌の餌になるオリゴ糖も小さじ2杯ほど毎日摂られるとよいでしょう。

「血糖値スパイクは老化を促進6」

十勝毎日新聞2017年4月17日号

ではこの「血糖値スパイク」、すなわち食後高血糖を予防するにはどうしたらいいのでしょうか。

まず食事の摂り方を工夫すると良いでしょう。食事の際に、最初に食べるものは、野菜、お魚やお肉などのおかず類です。明らかに糖質の多いもの、お米、パン、パスタ、コーンスープなどは最後に少量摂るとよいでしょう。そうすることによって高血糖を防ぐことができるのです。

低GI食品を意識して摂ることもいいでしょう。GIはGlycemic Index(グリセミック・インデックス)の略で、食後の血糖値の上昇度を示したものです。低GIは血糖が上がりにくい食品です。ブドウ糖を100とした場合に、高GIとは70以上、中GIとは56〜69、低GIとは55以下の食品をいいます。

例えば高GI値の食品は、フランスパン(GI値93)、食パン(91)、うどん(85)、白米(81)などで、低GIは、玄米(54)、そば(50)、全粒粉パスタ(50)、全粒粉小麦パン(50)などです。したがって糖質をとる場合は低GIの食品を摂られるとよいでしょう。

食後の軽い運動、ウォーキングなども血糖を下げる作用があります。筋肉を使うことによって糖が筋肉の中に取り込まれていくからです。それによって血糖が上がりにくくなります。

それから朝食は抜かないということが大切です。朝食を抜いた後、昼食で糖質を摂ると、朝食をとった時と比べて、血糖がかなり上がることが知られています。朝食をしっかり摂ることにより、昼食時の血糖はそう上がらなくなります。

果物はブドウ糖ではなく、果糖です。血糖は上がりませんが、摂りすぎると直接内臓脂肪として蓄積し、メタボに結びつきます。一日に片手の平サイズの果物が目安です。果物も食事の最後に摂ります。

最後に終末糖化産物についてお話しします。高血糖になると糖とタンパクが結びついて体温により終末糖化産物ができることを話しましたが、実は終末糖化産物は食事でとることによっても体内に蓄積します。

高い温度で加熱するほど終末糖化産物はたくさんできます。例えば、トンカツ、唐揚げ、ステーキ、焼き鳥、フライドポテト、などに終末糖化産物が多く含まれますので、これらは毎日は食べない方が良いでしょう。加熱しない生野菜や刺身などがおすすめです。

「血糖値スパイク」と関係する様々なことを話してきましたが、食後高血糖をさけることは老化予防の大切な手段でもあるのです。

>> 十勝毎日新聞