アンチエイジングひとりごと十勝毎日新聞連載

十勝毎日新聞に「Dr.ミツオカのアンチエイジングひとりごと」というコラムで連載をはじめました。どうぞお読み下さい。

シリーズ目次

  1. 糖質制限食でメタボ解消!
  2. 血糖値スパイクは老化を促進
  3. 食生活改善でがんに負けない体を
  4. 健康維持に欠かせないビタミンD!
  5. 知って得する更年期の知識

知って得する更年期の知識

知って得する更年期の知識1

十勝毎日新聞2018年2月5日号

更年期といえば、以前は女性更年期を意味していましたが、10年ほど前から、男性にも更年期があることが少しずつ認識されてきました。しかし、ここでは主に女性更年期について、話をしたいと思います。

女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンの2種類があります。簡単に言えば、前者は「女性をつくるホルモン」で、後者は「妊娠を成立し維持するホルモン」です。本コラムで女性ホルモンというときは、特にことわらない限りエストロゲンのことを意味しています。

11歳ごろから女の子の思春期が始まります。脳の下垂体から出されたホルモンが卵巣からの女性ホルモンの分泌を促し、女性ホルモンは徐々に増加し、月経もみられるようになります。16〜17歳までには女性らしい体つきになり、その頃には女性ホルモン分泌も最高レベルに達します。そのレベルは性成熟期(20〜40歳)の間維持されます。

40歳ごろから、女性ホルモンは低下し始め、50歳前後で閉経となります。閉経は完全に月経がなくなることで、卵巣からの女性ホルモン分泌はなくなります。卵巣から生涯分泌されるエストロゲンの量はどのくらいと思いますか。スプーンー杯といわれています。そんな少量の女性ホルモンが性成熟期の女性の健康を支えているのです。副腎皮質では男性ホルモン(アンドロステンジオン)がつくられ、脂肪組織や筋肉に存在するアロマターゼという酵素によって女性ホルモンに変換されます。閉経後は、これが唯一の女性ホルモンの供給源となります。

女性ホルモンはエストラジオール、エストロン、エストリオールなどの種類がありますが、このうち最も強力な女性ホルモンがエストラジオールです。この血液濃度は、20〜40歳の性成熟期は20〜200pg/ml(以下単位は略)で、月経周期の時期によって上下します。排卵前が高く、月経前後は低くなります。更年期になると20以下に、閉経後は5以下になります。また、男性の値は20〜40ですから、閉経後の女性は男性よりも低い値になります。男性も女性ホルモンをもっているのかと思っている人もいるかもしれませんが、もっています。反対に、女性も男性ホルモンをもっています。女性の元気に男性ホルモンは関係しているといわれています。

知って得する更年期の知識2

十勝毎日新聞2018年2月19日号

閉経の年齢は50歳前後で、時代、人種、地域などによって変わることはなく一定と考えられています。日本人の平均閉経年齢は50歳、半分は45〜50歳で、四分の一が、45歳未満、そして残りの四分の一が50歳以上です。閉経が近くなると、月経が毎月こなくなったり、月経量が少なくなったり、周期が短くなったり長くなったりします。月経が一年間こなければ、最後の月経の年月日をもって閉経と医学的には定義しています。

閉経前後の5年間を更年期とよんでいます。年齢では45〜55歳に相当します。しかし、45歳で閉経した人は、40歳頃より更年期が始まります。更年期に入ると急速に女性ホルモンが低下してきます。でも直線的にではなく、ある程度の揺らぎをもって低下していきます。

また、この時期には排卵を伴わない月経も出てきますので、40歳を過ぎる頃から妊娠の可能性が落ちてきます。自然妊娠が可能な年齢は43歳頃までと考えられています。基礎体温を測定することで、排卵を伴っている月経か否かを判断できます。

卵巣からの女性ホルモン低下が始まりますと、脳の視床下部から下垂体に対して、性線刺激ホルモン(FSHやLH)を分泌するように指令が出されます。分泌されたFSHやLHは卵巣に対して女性ホルモンをもっと出すように指示しますが、卵巣はそれにこたえることができません。脳はさらに刺激量を増やします。それでも卵巣の反応がないために視床下部は混乱におちいります。視床下部は自律神経のコントロールセンターでもあるため、ここの混乱は自律神経失調を招くことになり、様々な症状が出現するようになります。

FSH(卵胞刺激ホルモン)の血液濃度は、20〜40歳では10mIU/ml以下(以下単位は略)ですが、更年期になりますと、30以上になってきます。血液検査でエストラジオールが20以下、FSHが40以上を示すなら閉経と診断されます。

知って得する更年期の知識3

十勝毎日新聞2018年3月05日号

更年期障害を説明する前に、女性ホルモンがどのような役割を体の中で果たしているかを説明します。

まず乳房では乳腺の発育を促進します。皮膚や膣などの粘膜では乾燥や萎縮を防ぎ、組織の弾力性を保つコラーゲンやエラスチンを増やします。これによりキメ細かなハリのある肌を維持しているのです。毛髪の発育を促進させ、丈夫でつややかな髪を保ちます。骨をつくる細胞を活性化し、一方では過度の骨の破壊を防ぎ、カルシウムを貯蔵し、骨を丈夫に保ちます。

また血液の善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やし、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を少なくし、動脈硬化を防いでいます。したがって閉経前はほとんど動脈硬化は見られず、50歳以前の女性の心筋梗塞は珍しいくらいです。妊娠、出産、子育て、などをうまくのりきるために、女性ホルモンが女性の健康を守っていると言ってもいいでしょう。しかし、女性ホルモンが低下してくると、これらの働きは失われて行くことになります。

更年期で最初に出てくる症状は、いわゆる更年期症状といわれるものです。遅れて出てくる症状は、閉経後5年以内に、膣壁の萎縮が生じ、これが膣炎や性交痛の原因になります。皮膚も萎縮し、肌が乾燥して荒れてきます。さらに、頻尿、膀胱炎、尿もれなどの泌尿器症状が出てきます。膀胱や尿道の粘膜も萎縮してくるのです。

膀胱はおっしこを溜めるタンクですので、粘膜が萎縮すると十分にふくらみきれず、おしっこをたくさん溜められなくなります。また、きちんと収縮できなくなって尿が残り、これが頻尿や膀胱炎の原因になります。また、尿道をしめている骨盤底筋の筋力が低下してきますので、お腹にちょっと力が入ると尿もれを起こすことになります。

余談ですが、男性の場合、男性ホルモンは女性のように急激には低下しません。50歳頃から低下度は強くなりますが、それでも緩やかに低下していきます。個人差も男性は大きく、50歳を過ぎても若い時と同じレベルの男性ホルモンをもっている人もいます。70歳くらいまでは勃起能があるのが普通です。日本人の50歳代の夫婦の半分はセックスレスといわれていますが、これには閉経後の性交痛が関係しているかもしれません。もちろん一部の男性ではED(勃起能不全)が原因となっています。

知って得する更年期の知識4

十勝毎日新聞2018年3月19日号

閉経後5〜10年で、骨粗鬆症や動脈硬化症が出現するようになります。65歳を過ぎると、約3分の1の女性が骨粗鬆症になってきます。元気で長生きするためには、体の土台である骨を丈夫に維持しておくことが大事です。

杖をついて腰が曲がっているのが昔のおばあさんの姿だと思っていましたが、実は背骨が圧迫骨折を起こしてつぶれ、骨が曲がってあのような姿勢になってしまったのです。若い時より2センチメートルも身長が縮んだら骨粗鬆症を疑います。立ち姿が美しい女性は、実は骨も丈夫なのです。閉経前は、女性は心筋梗塞や狭心症が男性よりも少なかったのが、閉経後約10年で、急速に動脈硬化が進み、60歳代になると男性を追い抜いていくようになります。

次に更年期症状について述べます。症状は200種類以上もあるといわれています。代表的な症状のベスト20をあげると、ほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)、肩こり、冷え、疲れやすい、腰痛、物忘れ、イライラ、頭痛、不眠、集中力がない、めまい、動悸・息切れ、高血圧・脂質異常症、関節痛、無気力、皮膚のかゆみ、胃の症状、耳鳴り、うつ状態などです。症状が強くなって日常生活がまともにおくれないに状態になると、更年期障害とよばれ、何らかの治療が必要となります。

更年期症状は多彩なので、本人も何科にかかればよいか迷ってしまします。更年期障害でどこに受診したか聞いたところ、内科、整形外科、整骨院、産婦人科、指圧・マッサージ、泌尿器科、心療内科、精神科、などがあげられました。

ただ、すべての人が更年期障害を訴えるわけではありません。発症には女性ホルモンの減少に加え、性格、職場や家庭などの環境変化、などが関係しています。

更年期症状をまったく感じないで過ごす人もいれば、寝込むほど症状が強く出て通常の生活が送れない人までいます。その辛さを周囲の人にはなかなか理解できません。40歳をすぎて、今までに経験したことのない体調不良があれば、更年期症状かもしれないと考えて見てください。

知って得する更年期の知識5

十勝毎日新聞2018年4月2日号

次に更年期障害の治療について述べましょう。更年期障害の原因は、女性ホルモンの減少が主因ですから、第一選択はホルモン補充療法(HRT、Hormone Replacement Therapyの略)です。HRTを望まれない場合は、漢方薬を使います。また症状に応じて睡眠薬や抗不安薬などを用いることもあります。でも、以下のような理由で私はHRTを治療としてお勧めしています。

この100年で、女性の平均寿命は50歳から86歳まで伸びました。100年前は、閉経とともに人生を終えていたので、閉経後に出現する女性ホルモン欠乏による様々な老化現象は問題にならなかったのです。しかし今や、女性ホルモンのサポートが受けれない閉経後の人生が36年もあるのです。しかも、多くの女性が70歳を過ぎると、何らかの介護を受ける状態におちいっています。その原因の多くが、骨、筋肉、関節などに関係した運動器障害によるものです。特に、腰痛や膝痛のために運動できなくなると、筋肉が減少し、転倒しやすくなり、それに骨粗鬆症が加わって骨折をきたし、最悪の場合、寝たきりになることもあるのです。

これに認知症の問題が加わります。特に女性はアルツハイマー型が多いのですが、認知症予防に運動が良いというデータがたくさんあります。運動できないと老化に拍車がかかります。介護を受けている半分強の女性が、がん、心臓病、脳卒中などの3大死因と関係ない状態で、生活の質を落として介護状態におちいっているのです。骨、筋肉、関節、認知機能などの問題は、閉経後の女性ホルモン欠乏と無関係ではありません。HRTは更年期障害の治療法でもあるのですが、長い目で見れば老化を先送りし、健康寿命の延伸につながるものでもあるのです。ですから更年期障害の治療として私はHRTをお勧めしています。

HRTのやり方には種々ありますが、私が行なっている方法について説明します。更年期障害があり、HRTのメリットとリスクについて説明をして同意されれば行います。まず、子宮の有無でやり方が違います。子宮筋腫などで子宮をとった女性には、エストロゲンのみを投与します。通常は貼付剤を2日に1枚使います。皮膚がかぶれるようであれば、ジェル剤に変更することもあります。子宮のある女性には、エストロゲンに加えて、毎月12〜14日間、月初めからプロゲステロン製剤を内服してもらいます。内服終了前後で月経様出血があり、これは1週間ほど続きます。これにより肥厚した子宮内膜を剥離し、子宮体癌を予防するのです。月経様出血がわずらわしいという方には、別の投与法もありますが、それでも不定期の出血は見られます。この場合は、いつ出血するかわかりませんので、多くの人は前者を選ばれます。

知って得する更年期の知識6

十勝毎日新聞2018年4月16日号

HRTの効果ですが、更年期症状のほてり・のぼせ・冷えはほとんど消失します。しびれ、不眠、イライラ、憂うつ、疲労感、関節痛・筋肉痛、異常感覚(皮膚の上をアリがはう様な感じ)、などは60〜80%、めまい、頭痛、動悸、などは半分くらい消失あるいは軽快します。この他に、骨粗鬆症の予防、脂質異常症の予防、大腸がんのリスクの低減、肌のはりや粘膜の潤いが得れる、などのメリットがあります。

HRTのデメリットとしては、1000人が5年間 HRTを受けた場合、乳がんが7人、静脈血栓症(肺塞栓として発症することが多い)が5人、脳卒中は1人、増えるとの報告があります。2016年国際閉経学会はグローバル・コンセンサス(国際的な同意)を発表し、座ってばかりで運動しないライフスタイル、肥満、アルコール摂取などの人と比べ、HRTの乳がんリスクは、それらと同等あるいはそれよりも低いと発表しました。乳がんリスクに及ぼすHRTの影響はとても小さいとしています。静脈血栓症自体は肥満者に多く、BMIが30を超える肥満者が少ない日本ではあまり問題にならないと考えられています。

HRTの禁忌や慎重投与症例はありますが、多くの場合ほとんど問題はありませんので、ここでは詳しくは触れません。

HRTを続ける女性は、年1回は必ず、乳がん、子宮がんの検診を受けてもらいます。乳がん検診はエコーとマンモグラフィーを、子宮がん検診は頸がん検診、体がん検診、経膣エコーをお勧めしています。

「いつまでHRTを続けていいのでしょうか」と、よく質問されます。去年「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」が日本産婦人科学会・日本女性医学学会から出版されました。それによると、「一律の年齢や投与期間はない」と書かれています。これは世界閉経学会も同様の見解で、患者が希望すれば、生涯続けることもできるというのです。ただ日本の場合、保険診療内でHRTをするなら60歳くらいまでしか認められていないようですので、それ以降も続けたいのであれば自費診療になると思われます。

知って得する更年期の知識7

十勝毎日新聞2018年5月7日号

それでは世界ではどの程度HRTが普及しているのでしょうか。最新のデータはないので、1998年のデータを示しますが、調査した国で高い順にあげますと、スウェーデン46%、アメリカ35%、ドイツ33%、フィンランド30%、英国29%、フランス19%、イタリア8%、韓国7%、スペイン7%、日本2%でした。先進国中、日本は最低でした。

日本のHRT普及率は最近も変わらないようで、世界の研究者からは、日本は更年期治療の後進国と思われて相手にされないと、日本の研究者から聞いたことがあります。

「HRTは危険だって聞いたのですが⋅⋅⋅」という質問もよく聞きます。これには2002年に米国から発表されましたWHIの研究報告が大きく関係しています。WHI研究とは15年間で6億ドルという巨費を投じて、米国の国立衛生研究所が主導し、1991年に始めたもので、中高年女性の健康に与えるHRTの効果について検討したものです。HRTを5.2年間続けた後に、メリットよりデメリットが大きいとして中途で研究を中止しました。

2002年にその報告を出しましたが、その内容は、HRTによって相対リスク(HRTをしなかった対照群を1.0とした場合)は、静脈血栓症は2.11、冠動脈疾患は1.29、脳卒中は1.41、乳がんは1.26、にそれぞれ増加し、反対に大腸がんは0.63、骨折は0.66に減少したとしました。この報告は世界中に衝撃を与え、以後HRTはしばらく冬の時代を迎えます。

知って得する更年期の知識8

十勝毎日新聞2018年5月21日号

各国の更年期研究者の代表で構成される国際閉経学会はすぐに、WHI報告に対して研究の方法や対象に問題があり、示されたデータで上記の結論を引き出すのは不十分と表明しました。例えば、対象者は、①ほとんどが肥満者(BMI28.5)、②63〜68歳の高齢者、③喫煙、高血圧、過去にHRTを行なった人を多数含む、④たった一つのHRT投与法を採用、などの問題を指摘しました。

その背景には、肥満や喫煙そのものが乳がんのリスク、高血圧そのものが冠動脈疾患や脳卒中のリスク、HRTは50歳前後で開始するのが通常なので高齢者の結果は参考にならない、WHI研究に使われた以外の薬剤が現在は使用可能、などがありました。要するに不健康な高齢者を対象にした研究からは正しい結果は得れないということでした。

これに対して、2004年にWHI研究者は細かくデータを再解析し、7年間子宮のない女性にエストロゲンのみを投与した結果を報告しました。報告の内容は、①心臓血管系のリスクの増減は認められなかった、②乳がんリスクの増加は認められなかった、③脳卒中のリスクは増加した、④大腿部頸部骨折の減少が認められた、ということでした。

約10年間、WHI報告をめぐり、世界中の研究者が議論を重ね、この間新しい研究結果も出され、現時点のHRTについての考え方は、2013年および2016年に出された国際閉経学会のグローバルコンセンサス(世界的な合意)に集約されています。要点だけをあげますと、①60歳未満、閉経後10年未満の更年期障害を有する女性にとって、HRTは有効な治療法である、②同年代では、HRTによって冠動脈疾患のリスクは変化しない、また、静脈血栓症は稀であり、エストロゲンの経皮吸収剤を用いるとそのリスクはさらに小さくなる、③HRTによる乳がんリスクは小さく、適切なプロゲステロンを選択することでさらにそのリスクは小さくなる、④HRTをいつまで続けるかは、個別に取り扱われるべきである、ということになります。

WHI報告からのこの十数年で、HRTについていろんな検討が加えられ、より安全にHRTが受けられるようになったと私は考えています。

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