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アンチエイジングひとりごと十勝毎日新聞連載

十勝毎日新聞に「Dr.ミツオカのアンチエイジングひとりごと」というコラムで連載をはじめました。どうぞお読み下さい。

シリーズ目次

  1. 糖質制限食でメタボ解消!
  2. 血糖値スパイクは老化を促進
  3. 食生活改善でがんに負けない体を
  4. 健康維持に欠かせないビタミンD!
  5. 知って得する更年期の知識

食生活改善でがんに負けない体を

「食生活改善でがんに負けない体を1」

十勝毎日新聞2017年5月1日号

去年の夏、僕にとってかなり衝撃的な講演を聴く機会がありました。

どんな意味で衝撃的であったかと言いますと、僕は心臓病・不整脈専門医のため、ガン患者さんを主治医になって自分で治療することは通常ありません。手術でガンを取り除く、放射線や抗がん剤でガンを叩く、などが主なガン治療であると思っていました。ところが講演は、「食生活の改善」でガンを治療する、という内容でした。

講師は京都大学の元呼吸器外科教授の和田洋巳先生で、外科医として、肺ガンの手術を最前線でがんがんとやってきた一流の臨床医・研究者です。ガンが消えたという話を時に聞くことはありますが、それが事実であったとしても医学的にどう説明できるのか、いつも疑問に思っていました。「食生活の改善」が、なぜガンに効くのか、彼は医学的な根拠をもって説明してくれました。説得力のある話に引き込まれていきました。

退官後の2011年に、彼は京都市内に「からすま和田クリニック」を開業しました。教授退官後は、ガン拠点病院の院長になる道もあったのですが、自分が理想とするガン治療をするために開業を選びました。

大学で仕事をしている頃、手術のできない末期ガン患者さんの中に、劇的に「寛解」する人が少なからずいることを彼は知っていました。「寛解」とはガンが消えるかどうかは別にして、増悪しない状態が長年続くことを意味しています。手術すらできなかった末期肺ガン患者さんが、数年後にひょっこり現れて驚くことがあったそうです。

そのような「寛解」したガン患者さんに耳を傾け、地道に聞き取り調査をしました。その結果、「寛解」したガン患者さんに共通した食生活があることに気付いたのです。さらにそれがなぜ効いたかを説明できる科学的根拠を彼は調べはじめました。

「食生活改善でがんに負けない体を2」

十勝毎日新聞2017年5月15日号

彼の結論は「ガンは生活習慣病である」ということでした。タバコや放射線などのように遺伝子変異をもたらす直接的な原因は別として、生活習慣、特に食生活がガンをつくる土壌を体の中につくってきたというのです。食生活の改善によりガンが暴れなくなり、ガンと共存しながらQOLの高い長期生存が可能になると彼は考えました。

実は彼自身も退官後の2008年に胃ガンとなり、胃の3分の2を切除しました。彼の胃ガンは予後の悪いスキルス型だったそうですが、食生活の改善を自ら実践し、最終的には再発もなく、10年後の今もガン治療医として元気に仕事をしています。

彼が勧めるガン患者さんの基本的な食事は以下の5項目です。

①糖質は控える、②塩分は控える、③タンパク質は大豆製品や魚でとる、④野菜・果物・きのこをたくさんとる、⑤体に良い油をとる。

各項目について専門的な用語をなるべくさけ、その理由を説明してみます。

まず1番目の「糖質は控える」ですが、主食の米・パン・麺類は、糖質を多く含み、ほとんどはブドウ糖ですので、食べると血液中のブドウ糖(すなわち血糖)が上昇します。ガン細胞はブドウ糖を唯一のエネルギー源としています。

また、正常の細胞の10倍以上もガン細胞はブドウ糖を細胞内に取り込むことができます。必要以上のブドウ糖が体に入ってくると、ガン細胞はそれをどんどん取り込んで増殖していきます。

したがって、ブドウ糖の供給を断ち、ガン細胞を兵糧攻めにすることで、ガン細胞は弱っていくというのです。このためには糖質を控え、また、血糖上昇の緩やかな食品(GI値の低い食品)を選ぶことが重要です。例えば、白米より玄米を彼は勧めています。

「食生活改善でがんに負けない体を3」

十勝毎日新聞2017年6月5日号

2番目の「塩分は控える」についてですが、ガン細胞は無酸素状態でブドウ糖から生きるエネルギーを得ています。これは嫌気性解糖と呼ばれていますが、その結果として最終的に乳酸がどんどん細胞内に増えてきます。正常細胞では乳酸が増える前に、前段階のピルビン酸をミトコンドリア内に取り込んで、有酸素状態で効率的にエネルギーを産生しています。これはクエン酸回路と呼ばれていますが、ガン細胞はこの回路を利用できません。

乳酸は同時にプロトン(水素イオン)を産生して細胞内は酸性になります。ガン細胞は細胞内を弱アルカリ性に保って生きているので、酸性になると生きてはいけません。そこで、ガン細胞はプロトンと細胞外のナトリウム(塩分)を交換し、プロトンを細胞外に排出して、ガン周囲を酸性にします。正常細胞は細胞内を中性に保っていますので、酸性のつよい環境では生存しづらく、ガン細胞が増殖しやすい環境にガン周囲は変えられていき、さらに勢いをつけて増殖していくのです。しかし、体内の塩分量が少なくなれば、ナトリウム(塩分)とプロトンの交換も少なくなるので、ガン細胞の勢いは衰えていきます。したがって「塩分を控えた食事」がガン抑制につながるというのです。

次は3番目の「タンパク質は大豆製品や魚でとる」について説明します。人の成長には、成長ホルモンの他に、肝臓で作られるIGF-1(インスリン様成長ホルモン)という成長促進物質が欠かせません。しかし、成人後IGF-1の量が多くなると、前立腺、乳腺、大腸などのガンの発生率が高くなることがわかっています。すなわちIGF-1は、mTOR(哺乳類のラパマイシン標的タンパク質)という物質の働きを活発にすることで、ガン細胞の発生や増殖に作用すると考えられているのです。

mTORとは、ここでは専門的になりますので詳しくは説明しませんが、細胞の分裂や生存に深く関わっている物質です。IGF-1を多く含む食品は、肉類や乳製品などですが、ガンになった時は、体のIGF-1を増やさないために、これらの食品を控えた方が良いと彼はいっています。

「食生活改善でがんに負けない体を4」

十勝毎日新聞2017年6月19日号

一方では、体を作っているのはタンパク質ですので、タンパク質はしっかりとる必要があります。彼はタンパク源として大豆製品や魚を勧めています。魚はオメガ3系の不飽和脂肪酸を多く含む、背の青い魚がよいといっています。オメガ3系脂肪酸には体の炎症を抑える作用があります。炎症は、ガンの原因になるばかりか、ガンの進行に関係していますので、炎症を抑えることが大事というのです。

ここで炎症について少し説明します。炎症とは体にとって火事のようなものです。家が火事になると、消防隊員、警察官など多くの人たちが現場に駆けつけ、消火活動にあたります。これと同じように、体の中で炎症が起きると、炎症部位(現場)に好中球やリンパ球などの炎症細胞が集まり、炎症を沈静化しようとします。例えば扁桃腺に細菌がつくと赤く腫れ上がりますが、そこでは集まった炎症細胞が細菌を排除するために戦っているのです。一過性で、短期間でおさまるものは、急性炎症とよばれています。

これに対して長い間、体の中でくすぶり続ける炎症があり、これは慢性炎症と呼ばれ、ガン進行の原因になります。例えば、肥満は慢性炎症の一例です。肥満の人はガンになる確率が上がることがわかっています。内臓に蓄積した脂肪細胞が、さまざまな生理活性物質を分泌し、血管や他の臓器に慢性炎症を引き起こします。ガンの周囲ではTNFα(腫瘍壊死因子アルファ)という物質が分泌され、NFκB(核内因子カッパーB)に作用して炎症が続くように働き、炎症はEMT(上皮間葉転換)を促してガンの転移進行を助けるのです。難しい用語を羅列しましたが、そこはスッキプして下さい。

要するに、体の炎症が長引けば、ガンの発生・進行のリスクが高まることになります。肥満の是正は、ガンになるリスクを減らすことにつながります。

「食生活改善でがんに負けない体を5」

十勝毎日新聞2017年8月7日号

話をもとにもどして、4番目の「野菜・果物・きのこをたくさんとる」ということを説明します。前述したようにヒトは、ミトコンドリア内のクエン酸回路で酸素を利用して効率的にエネルギーを産生していますが、この時に活性酸素という物質が発生します。これが細胞膜や遺伝子を傷つけ、ガン発生の原因にもなります。私たちの体は、活性酸素を消去する物質を持っていますが、大量に活性酸素が発生すると、それだけでは消去しきれません。

野菜や果物には、ビタミンやポリフェノールと呼ばれる物質が多く含まれ、体内に取り込まれると、活性酸素を消去し、傷んだ細胞を修復し、細胞をよい状態に保つ、などの働きをします。ただ、果物は果糖を多く含み、果糖は内臓脂肪に変わりますので、メタボの方は摂りすぎに注意してください。

きのこにはβグルカンという免疫力を高める物質が多く含まれています。免疫力が高まると、ガンの勢いは抑制されます。

最後に「体に良い油をとる」ということについて説明します。オメガ3系の不飽和脂肪酸については前に少し触れましたが、青魚に多く含まれるEPAやDHA、亜麻仁油やエゴマ油に多く含まれるαリノレン酸などがオメガ3系の不飽和脂肪酸です。オメガ3系脂肪酸は体でつくることはできませんので、食事から摂る必要があります。オメガ3系脂肪酸は、体の炎症を抑える物質の材料となります。したがって、ガンが増殖しやすい環境を改善し、転移を防ぐということにつながります。

講演の要旨を書きましたが、興味がある方は以下の本をご一読されることをお勧めします。

「がんに負けないからだをつくる 和田屋のごはん」監修:和田洋巳(WIKOM研究所)1600円(税別)、「がんに負けないこころとからだのつくりかた」監修:和田洋己(WIKOM研究所)1500円(税別)

「食生活改善でがんに負けない体を6」

十勝毎日新聞2017年8月21日号

今回の話と関連した本をもう一冊ご紹介しましょう。数年前に米国で出版され、全米でベストセラーになった本です。「がんが自然に治る生き方—余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちが実践している9つのこと」 ケリー・ターナー著(プレジデント社)1800円(税抜)。

著者のケリー・ターナー氏は、ハーバード大学卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士過程に進み、そこで世界中のガン患者で、劇的寛解を遂げた千例以上を分析し、そのような人たちに次のような9つの共通項があることを見つけました。

①抜本的に食事を変える、②治療法は自分で決める、③直感に従う、④ハーブとサプリメントの力を借りる、⑤抑圧された感情を解き放つ、⑥より前向きに生きる、⑦周囲の人の支えを受け入れる、⑧自分の魂と深くつながる、⑨「どうしても生きたい理由」を持つ。これらの項目について本では詳しく書かれています。

今回はガンと食事の関係について取り上げましたが、毎日何気なく口に入れているものが、実は僕たちの体を養っていることを再認識する必要がありそうです。

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